魔法少女 リリカルなのは StS,EXU
□第二十八話「少年の願い、青年の決意」(前編)
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冬の世界。雪が敷き詰められた聖域の上で、彼等は五度目となる対峙を果たした。
それをスバルとティアナは彼の後ろから見る。敵である筈の存在、神庭シオンの異母兄、伊織タカトの後ろから。
「……シオン」
「ぐ、うる、る」
タカトの呼びかけに、シオンは明白に反応する――いや、怯えるが正しいのか。その反応を見て、タカトはギシリと歯を軋ませた。
「タカト、さん?」
「ちょっ、スバル!」
再びタカトの名前を呼ぶスバルに、ティアナは制止をかける。しかし、肝心のタカトはそんな二人に構わなかった。
「……イクス」
今度はシオンとユニゾンしたイクスに声をかける。反応は当然無い。だが、別の反応は起きた。シオンの周りに。
「あ、ぐ、が、あ……っ!」
「「シオンっ!」」
急に苦し気に呻くシオン、その周囲にポコリポコリと溢れていた因子が激しく動き、怒涛の如く溢れ出した。それにスバル、ティアナが叫び――消えた、シオンが。
――トン。
「へ……?」
「え……?」
同時にスバルとティアナの身体が泳ぐ。優しく突き飛ばされ、左右に分かれるようにだ。それを成したのはタカト。
いつの間にやら、自分達の真横に移動したタカトが二人を突き飛ばしたのだ。
直後、タカトの眼前にシオンが現れる!
右手の鈎爪は既に掲げられ、数瞬も待たずにタカトへと叩き付けるべく動き。
−徹!−
瞬間、上空に跳ね飛んだ。シオンが。タカトがカウンターで、顎を蹴り貫いたのである。
しかし、シオンは蹴りダメージにも構わない。タカトの真上でくるりと回転。そのまま空中に足場を展開し、それを足掛かりにタカトへと急降下する。
タカトは構えを取る事さえ無い。再び振り下ろされる鈎爪に、タカトは頭を一つ下げる事で対応した。
−閃−
鈎爪が数瞬前までタカトの頭があった部分を通り過ぎる――次の瞬間、シオンはタカトの”背後に”現れた。
「る――!」
「っ……!」
今度こそ自身の反応を越えた動きに、タカトは目を見開いて驚き。
−戟!−
放たれた左の鈎爪と、振り返ったタカトの左腕が交差した。何とか防御に成功したが、体勢が悪かったのかタカトは力負けし、吹き飛ばされる。そして、再びシオンの姿は消失した。
「天破紅蓮」
−爆!−
直後、吹き飛ばされた勢いを利用して放った胴回し蹴りと、同時に叩き込まれた天破紅蓮が背後に現れたシオンに叩き込まれる!
−轟!−
蹴りが叩き込まれたシオンを中心に、天を衝く火柱が突き立った。同時に、シオンとタカトがその火柱に断たれるように反対に吹き飛ぶ――。
「ぐう、る……!」
「ふぅっ」
――止まらない。両者ともその姿を消し、火柱が漸く消えた場で再び対峙した。
−戟−
−戟−
−戟!−
−撃−
−撃−
−撃!−
至近で、左右の鈎爪と両の拳がぶつかり合う! 振るわれる左の鈎爪。それをタカトは今度は拳で迎撃せずに逆に踏み込んだ。
−閃−
左右の腕を使った踏み込み。同時にシオンの左の腕を捌き、腹へと両の掌が当てられる。
「ひゅっ」
「がっ!」
−破!−
鋭い息吹がタカトの口より吐き出され、シオンがすっ飛んだ。
――双纏掌。八極拳の一手だ。転がるシオンにさらにタカトは踏み込む。シオンは、そのまま獣のような勢いで立ち上がる――だが、既に懐へタカトは潜り込んでいた。
「天破震雷!」
−破−
再び叩き込まれる両掌! 雷を纏うそれに、シオンの身体は一瞬だけ浮き。
−雷!−
直後、凄まじい雷がシオンを貫く!
「る、う……」
そして、身体のそこかしこから煙を上げて、シオンは前のめりに崩れ落ちた。
「……シ、シオン?」
あまりの戦いに呆然となっていたスバルが漸く口を開く。だが、シオンは動かない。
「あんた……!」
ティアナも動かないシオンを見て、それを成したタカトを睨む――次の瞬間。
−戟!−
「ぐっ!」
タカトが吹き飛んだ。
「「え……?」」
いきなり吹き飛ばされた彼に二人は唖然となり、同時にそれを見る。シオンの背後にくねる尻尾を。
さらに因子がシオンの身体に激しく沸き立つのが見えた。再生しているのだ、普通の感染者と同じく。
「そこの二人、死にたくなければ下がれ」
タカトから初めてスバルとティアナに声がかかった。だが、スバルもティアナもそれには気付かない。目の前で再生し、立ち上がるシオンを見るだけ。
「ほら、何してんだ!」
「スバル!」
いきなり二人の身体が引かれる。ノーヴェとギンガだ。
スバルとティアナが気付いた時には、その周りにN2Rの面々が居た。二人の手に引かれ、そのまま後ろへと下げられる。
のそりと立ち上がるシオンに再びタカトが立ち塞がった。
「ぐ、うるる!」
「……」
タカトは黙ったまま眼前のシオンを見る。シオンは構わない。四肢を地面につけ、獣のような体勢でタカトと対峙するのみだった。
「裏コードALICE入力。前マスター、伊織タカトの名の元に。イクスカリバー管制人格再起動」
ぽつりとタカトが呟くと、シオンがぴくりと反応した。苦し気に呻き出す。だが、タカトはシオンの様子に構わない。
「イクス、話せるか?」
【……再……起動……開始……タカト、か……】
ノイズ混じりの声が響く。それはスバル、ティアナ達にとっても聞き覚えのある声だった。
「イクス!」
「大丈夫なの!?」
【……あまり、無事では無いな】
スバルとティアナからかけられる声に答えるも、力が無い。二人には構わずにタカトは一歩前に出る。
「イクス、何でシオンが感染者化している? 封印を施して二週間しか経っていない筈だ」
【……俺にも、解らん。だが、一つだけ言える事がある】
響くイクスの言葉。それを聞き逃すまいとさらにタカトは前に出る。そして、”それ”を聞いた。
【シオンは真実を知ってしまった】
「……なに?」
思わず、イクスに問い直すタカト。その声は、まるで聞きたく無いものを聞いてしまったかのように、微かに震えていた。
【……事実は変わらない。シオンは、真実を――】
「……っ」
再び鳴る歯ぎしり。悔し気に、そして哀し気にタカトは顔を歪める。
そんなタカトの様子に、スバルやティアナ、N2Rの面々は驚いていた。今までのタカトは基本至って無表情であり、まともに話したのもシオンを他とするならばなのは達しかいない。それが今、感情を表に出している。
「う、ぐ、う!」
【済まない、俺は……!】
「イクス」
【タカト、シオンを――!】
最後まで言えなかった。イクスの声が途絶える。そして同時に、シオンの背後に生まれ出る無数の剣群。
それを見てタカトから表情が消えた、このスキルは――!
「人様のスキル使いまくってんじゃねぇって」
−ソードメイカー・ラハブ−
−轟!−
響く鍵となる言葉と共に、無数の剣群がシオンが生み出していた剣群にぶつかる。
それは再び相殺。金属が砕き合う音と共に剣群は地面に落ちた。
それを見て、それを成した人物にタカトは目を移す。
その人物はタカトに生まれて初めて、死ぬかもと思わせた男であった。
「無尽刀の――?」
「おう。覚えていたみたいで光栄だぜ、伊織」
笑い、再び剣群を背中に従えながら無尽刀、アルセイオが歩いて来る。シオンとタカトから対角線になる位置へと。
こうして、十年ぶりにアルセイオとタカトは出会ったのだった。