魔法少女 リリカルなのは StS,EXU
□第二十七話「アヴェンジャー」
1ページ/5ページ
――叫び。天を衝く大音声を上げて、感染者と化したシオンが吠える。音は衝撃となって辺りを打ち、盛大に雪煙を舞い上がらせる。
ティアナはただ呆然とそんなシオンを見ていた。
まだ信じられなくて。
まだ信じたくなくて。
だが何度目を擦ろうが、何度疑おうが、結果は変わらない。
シオンが因子に感染したという――感染していたという事実は変わらなかった。
「……なん……で……」
なんでなのかと、どうしてなのかと、彼女は思う。だけど答える人間は誰もいない。ティアナは涙が頬を伝った事を自覚した――。
変わってアルセイオ。彼は舌打ち一つと共に現状を認識。意識を切り替える。
「……坊主」
「神庭が、まさか」
ソラが呻くように呟く。そして、アルセイオをちらりと見た。
「隊長、如何しますか?」
「決まってんだろ。”感染者”を放って置く訳にゃあいかねぇし、クライアントの依頼は聖剣の奪取だ。……潰すぞ」
彼は即断する。やる事は変わらない。シオンを打ち倒し、イクスを奪うだけだ――ただ。
……こんな形で、か。
どうやらシオンに期待していた結果は得られなくなりそうだった。シオンならば、道が拓けるとも思ったのだが。
「見込み違いだったな。……悪ぃな坊主」
苦笑し、佇むシオンをアルセイオを見る。同時に剣群がその背に生まれた。
「リズ、俺とお前が前だ。リゼは隊長を援護。足を止めろ」
「了〜〜解〜〜」
「……了承」
即座に飛ぶソラの指示。それにリズ、リゼも頷く。同時に剣群がシオンに剣先を向け。
「行け」
−撃!−
一斉に放たれた。剣の絨毯爆撃だ。シオンへと迷い無く突き進むそれに、しかしシオンは動かない。
ただ、口から白い吐息と共にるる、と唸り声を漏らすだけ。さらにリズ、ソラが剣群の後ろから突っ込む。止めとばかりに、その後ろにはリゼが周囲に光球を生み出していた。
三段構えの攻撃。剣群、近接、射撃。例え、剣群を避してもソラ、リズの攻撃が、さらにリゼの射撃が待つ理想的な連携攻撃である。対感染者用とも言えるそれは正しく必殺。だがシオンはそもそも動かない。ただ佇むだけだ。そして剣群がシオンへと突っ込み――。
−撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃−
−撃!−
――叩き込まれ、硬い音と共に弾かれた。
「はぁ!?」
流石にその結果にはアルセイオも驚愕の声を上げた。だが、未だに叩き込まれている剣群はシオンに刺さる事は無い。ただその身体を揺らすのみ。それを見て、ソラとリズも止まり。
「るる……!」
「「――っ!」」
−轟!−
瞬間で、爆発したが速度を持って弾き飛ばされた。剣群を受けている筈のシオンが、そのまま瞬動で突っ込んで来たのだ――立ち止まった二人に!
くねる三本の尻尾に、アルセイオは呻く。あれがソラ達を打撃したのか。その一撃がまったく見えなかった。
「ソラ! リズ!」
「ぐっ……」
「う〜〜」
弾き飛ばされた二人は雪が敷き詰められた地面に叩きつけられて呻く。
「る!」
そして、シオンが空を舞った。まるで獣のような動きで両の鈎爪が振りかぶられる。狙いは――リズ!
「あ……」
「リズっ!」
「……させない」
−弾!−
ソラから飛ぶ警告。だがリズは身体が痺れているのか、動けない。そんな姉を助ける為に、リゼが二十の光球を放った。それはシオンへと突き進み。
「かぁっ!」
−波!−
ただの一吠えで、消し飛ばされた。振動波が発生したのだ。裂帛の咆哮だけで! その結果にリゼが目を見開き、叫ぶ。
「……姉さん!」
逃げて――その言葉すら間に合わなかった。
−閃−
「あ……」
「ぐる、る……」
空中で回転して、勢いのままに振るわれた右の鈎爪。それが、華奢なリズの身体に撃ち込まれた。
「……ねえ、さん?」」
「リ――」
直後。盛大に血飛沫が上がった。
「姉さんっ!」
「リズっ!」
「ひ……、あ……!」
リゼとソラからあがる声。それにリズは答えられない。そしてシオンもまた止まらない。
「が、ああああああああああああああああああああっ!」
−撃・撃・撃・撃−
−撃!−
連撃! 左右の鈎爪が間断無く撃ちつけられる。リズは悲鳴すら上げられず、ただ蹂躙されていく――!
−ブレイク・インセプト−
−ただ空へと我は向かう−
「魔皇撃っ!」
−突!−
次の瞬間、ソラが裂帛の声と共に突きを繰り出した。それは束ねられ、空気を引き裂き、空間すらも歪め、捩れた衝撃を形成。一点の矢となって、放たれた。螺旋の一撃はリズを蹂躙するシオンの背中に吸い込まれ。
−破!−
その威力を遺憾無く発生。シオンは盛大に捩れ回転と共にすっ飛んだ。
「――リゼ、リズを!」
「はい!」
直後にアルセイオから出される指示。リゼは即座に従い。アルセイオもまた止まらない。
−ソードメイカー・ラハブ−
響くはキースペル。同時に生み出されしは万を超える剣群。それも全てが十メートルオーバーの巨剣だ。剣群は生み出されたと同時に吹き飛んだシオンに撃ち込まれる!
−轟!−
放たれていく万を超える剣群はあたかも剣の激流だ。そのあまりの量。そして破壊力に、シオンは周りの地面ごと、穿たれ、叩かれ、蹂殺される。
それでも剣群は止む事が無く、辺りに雪煙を舞い上がらせた。
「やりましたか?」
「……どうだろうな。リゼ。リズを連れて帰還しとけ。今なら――」
−破!−
そこまで言った瞬間、漆黒の魔力が爆裂したが如く広がる。同時に剣群達が、跳ね飛ばされた。辺りの地面に突き刺さる剣群達。その中央に立つシオンは――無傷だった。
「あれを、喰らって……!」
「チっ」
流石に絶句するソラと舌打ちするアルセイオ。だが、彼は止まらずに右の手を掲げる。しゅるりしゅるりと形勢されていく剣。
スキル:無尽刀。
その実態は辺りの微粒子に魔力を走らせ、剣を作り出す能力だ。近い魔法だと、ヴィータのシュワルベ・フリーゲンや、コメット・フリーゲンが近いだろう。
あれもまた、周囲の微粒子を中心に鉄球を作り、撃ち出す魔法だ――規模や、威力は似ても似つかないが。
その無尽刀のスキルを持って、アルセイオは一つの剣を作り出した。刃渡り五十メートルは下らない、極剣を超える極剣を。
それをアルセイオは担ぎ、同時に足元にカラバの魔法陣が展開。アルセイオの身体が強化される。
「お、ら、よっ!」
−轟!−
−撃!−
叫び、投げ撃たれる極剣! それは空気をブチ破り、音速超過。ソニック・ブームを発生させ、シオンへと突き進む!
大量の剣群が効かぬのならば、一つの極剣を持ってして倒す。アルセイオの考えはひどくシンプルだ。だがそれ故に、その一撃は強力。極剣はシオンを打破し、打ち倒すに足る威力を有していた――しかし。
シオンは向かい来る極剣に前のめりの体勢と成り、四肢を地面につけて、顔を極剣へと突き出した。同時にがばりと開く口顎。直後にシオンへと叩き込まれる極剣。
そして、アルセイオは、ソラは、リゼは、ティアナは”それ”を見た。
――がぶり。
そんな、そんな音と共に極剣が、シオンの口顎に。
”飲み込まれた瞬間を”。
五十メートルを超す極剣が、シオンの口に、勢いのまま飛び込み。食らわれ、喰らわれ尽くす。
そんな信じがたい光景に、流石のアルセイオすらも絶句する。他は言わずもがな、だ。最後までシオンは極剣を喰らい、その体積だけは何故か変わらない。
そして、さらに信じがたい光景が展開する。
しゅるり、しゅるりと、生み出され、展開される剣群達――”シオンの背後”に、生み出された剣群達!
「おい。……なんだ、そりゃあよ」
「まさか、無尽刀を?」
スキルを喰らい、自分のモノとした?
有り得ない事だ。
有り得ない事だが、今の現状ではそう判断するしか無い。
動揺を無理矢理押さえ付け、アルセイオもまた剣群を形勢。生み出されし剣群と剣群。同時に、アルセイオは叫び。シオンは吠えた。
「行けっ!」
「が、あああっ!」
−撃!−
剣群がぶつかり合い。
−裂!−
互いを喰らい合い。
−破!−
互いを砕き合う!
ぶつかる、ぶつかり合う剣群達。金属がぶつかり合う甲高い音と共に、無尽刀同士という有り得ない衝突は成された。
「くっ! 坊主……!」
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
自らの能力を喰らわれ、そして向けられ、アルセイオが苦々しく顔を歪める。だが、シオンは構わず獣のような呼気を吐いたのだった。