魔法少女 リリカルなのはStS,EX

□第十三話「痛む空」(後編)
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 N2R少隊が一人、砲撃手のディエチ・ナカジマは長距離――1100m先から、その戦闘を見ていた。
 アースラ前線メンバーと、666の戦闘だ。
 シグナムが斬撃を浴びせているが、全ての斬撃は片手でいなされていた。ここからでも分かる、とんでもない技量である。
 なにせ、666と近接戦を繰り広げているのはシグナムだけではない。666の右手から振るわれるはハンマーの一撃。ヴィータだ。
 666は今、信じがたい事に左半身でシグナムの斬撃を、右半身でヴィータの鎚撃を完全に捌き切っていた。
 上段から放たれたシグナムの斬撃を、左手が巻き付くように絡め取り、その一撃の威力を足に伝達し、背後から放たれたヴィータのグラーフアイゼンに叩き込む。
 666はヴィータを見ていないのに、だ。後ろに目が付いているのかと疑いたくなる光景である。
 そして666はさらに止まらない。右の蹴りでヴィータを弾き飛ばすと、その勢いのままシグナムに密着。肩がシグナムの腹に接触した――直後、シグナムが爆発したかのように弾き飛ばされた。
 傍目からは666の肩がシグナムに軽く当たったようにしか見えない。しかし、あの威力。
 シグナムが空にいるまましゃがみ込み、激しく咳込む。口からは吐血していた。
 ――666の周りには誰もいない。まるで、孤高の王者の如く佇んでいる
 先程、ギンガとノーヴェも、シグナム達と同じく接近戦を演じていたが、二人仲良く空を舞った。合気。二人は自らの力をそのまま利用されて、投げとばされたのだ。
 今、二人は地面に倒れている。自分の攻撃の勢いのままに空から地面に叩きつけられたのだ。暫く立てまい。
 既に接近戦組は悟っていた。666に対してのクロスレンジは自殺行為だと。
 技量の桁が違い過ぎるのだ。次元が違い過ぎる。
 そして今、ヴィータは蹴りの一撃で吹き飛ばされ、シグナムは妙な技で弾き飛ばされた。
 だが、この瞬間をこそディエチは待っていたのだ。
 自然な形で、666の周囲に誰もいなくなる瞬間を。
 ディエチの狙いは狙撃。彼女の一撃ならば、666の防御を抜く事が出来る。不意打ちならば、各スキルも問題無い。
 今この瞬間こそがディエチの待ち望んでいた瞬間――。
 ディエチは自らの体内のエネルギーを固有武装イノーメスキャノンに注ぎ込もうとして。

 666と目があった。

 な――!? ……ッ!

 次の瞬間、ディエチは悪寒と呼ぶのも生温いものに突き動かされて、引き金を引こうとする。だが、それは叶えなれなかった。

 ――糸。

 水で出来た糸だ。それが、いつの間にかイノーメスキャノンに無数に突き刺さっていたのだ。知らぬ間に破壊されている!

 これ、は……!

 ディエチはそれを知っている。511武装隊を一撃で全員戦闘不能にした技。

 魔神闘仙術:天破水迅。

 ――まずい、と思った時には既に遅かった。
 水の糸はディエチの四肢に突き刺さり、瞬時に関節部の金属フレームを裁断する。手足を切り裂く事なく、彼女の最低限の身体機能のみを破壊してのけたのだ。

「そ、ん……な」

 その事実にディエチは戦慄した。これだけの長距離に於いて、なおこれだけの精密作業を行った666に。

「化物……か!」

 かつて、ディエチはなのはに対して人間かと疑った事があるが、しかしこれは別物だ。ヒトかどうかなんてものじゃない。
 666が左手を伸ばす。水糸が一斉に前線メンバーへと広がった。
 ディエチの手足は動かない。その光景を、ただただ見ている事しか出来なかった。
 
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