魔法少女 リリカルなのはStS,EX

□第二話「剣の行方」
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 咆哮。それには様々な用途がある。威嚇だったり求愛だったり、仲間を逃がす為の危険信号だったりがそれだ。あるいは恐怖をまぎわらす為と言うのもあるだろう。
 だが異形の獣が放つ咆哮はこの場では意味を為していなかった。
 異形に対峙するは銀髪黒衣の少年。その目は対峙する存在に対して、恐怖も畏怖も抱いていなかったのだ。
 あるのはただ一つ。死刑執行者の目であった。

「もう答える意思も残ってねぇか」

 ぽつりと少年は呟く。先程の問いだ。

 ――ナンバー・オブ・ザ・ビーストを知っているか?

 その問いをスバル・ナカジマは思い出していた。

 ……何の事?

 自分を先程助けてくれた? 少年はそんな事を異形に聞いていた。だが。

「RuuuuGAaaa!」

 当然異形は答えなかった。いや、そもそも意思なんて物は、もはやないのではないのか? 知性など更に期待出来まい。

「使えねぇな」

 少年はただそれだけ呟いた。腰を落とし、左手に剣を持って腰溜めに構える。
 その構えを見て一瞬、確かに異形はうろたえた。だが、その恐怖をまぎわらすかのように異形は突進を開始。もはや腕を無くした異形は最後の武器とばかりに頭ごと突進して、その顎を開く。赤い口腔内に乱杭歯が乱立し、よだれが尾を引いていた。
 異形が少年に迫る。しかし、少年は意に返さない。

 少年は異形に対して、たった一歩を踏み込んだ。

    −閃!−

 瞬間、剣が閃く! 少年が放った一刀だ。同時、”何か”が飛んだのをスバルは見た。

 ……異形の首だ。

 首が宙を舞う空の下で、少年は異形に背を合わせる様に、剣を振り抜いた姿で残心している。

「嘘……」

 目を見張る。自分が放った拳もなんの魔法もなく堪えた異形。それが一刀の元に伏されるとは。しかも……。

「全っ然、見えなかった」

 呆然と呟く。いつ斬撃を放ったのかも解らなかったのだ。恐るべき剣速である。

「神覇壱ノ太刀・絶影」

 少年がぽそりと呟く。それがあの技の名前なのか。残心を解いた少年はしかし、異形から目を離さない。

「ここから再生するか。タフだな」
「え? ……っ!」

 疑問符を浮かべるスバルであったが次の瞬間、少年の言ってる意味を理解した。
 あの黒い点が斬られた部分に集まり、その形を取り戻していたのだ。再生。そう再生している。斬られた首から上を。そして、消えたはずの四つの腕を。

「うそ……」

 思わず呆然する。が、スバルもまた理解した。何故自分が倒した筈の異形が、あの時無傷で立っていたのかを。こんな風に再生していたのだ。

「チッ……! これだから”因子”に感染した奴は。うぜーな」
「ちょ、そんな事言ってる場合じゃないよ!」

 舌打ちする少年に声をかける。だが少年は、視線のみをスバルに向けると興味なさげに無視した。

「無視しないでよ!」
「黙れ、うぜーな」

 あまりと言えばあまりの言葉にスバルは絶句する。ここまで言葉が悪い人と会話をした事は流石になかった。近い人ではヴィータがいるがそれでもここまで悪くはない。
 そんな二人を余所に再生が終わったのか、再び異形は突進してくる。

「馬鹿の一つ覚えか。ん?」

 少年が完全に見下しながら異形を見ていると、突進してくる異形の足元から何かが走って来るのが見えた。あれは、先程スバルを捕まえた黒い点! さっきと同じように少年も拘束する気か。だが、少年は迫り来る黒い点に不敵な笑みを浮かべた。

「舐めんなっ!」

 吠えながら、足元に剣を突き立てる。黒い点は、そこに真っ直ぐぶつかった。だが、剣の腹に阻まれ、少年まで届かず霧散する――しかし。

「GAaaaa!」

 再び放たれる咆哮。直後に少年の頭上から異形の手が迫る!

「ハッ! ない頭使ったってか? 笑わせんな!」

 向かい来る異形に、少年は嘲笑すらも浮かべ、そのまま一気に剣を地面から引き抜いた。

「吠えろ……。イクス!」
【フル・ドライブ!】

 叫ぶ少年の意思に応え、剣のデバイスが魔力を爆発的に吹き出した。

「神覇弐ノ太刀・剣牙!」

 地面から引き抜きざまに振り上げられた剣が、頭上高くで光を放つ。少年は迷い無く一気に振り下ろした。
 
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