魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十九話「約束は、儚く散って」(中編1)
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 『月夜』格納庫。
 月の内部を基地化して作りあげたそこは、従来の格納庫スペースより遥かに広く出来ている。そこを進む叶トウヤに、高町なのはは着いて行く。
 先程、『ネットワーク』でストラの次元航行艦隊を発見した彼は、『月夜』に第一級の戦闘配備を発令。ここに直行したのだ。
 着いて来たまえと言う彼の言葉に従い、一緒に来たのだが。

「ここだね」
「わぁ……!」

 目的地に着いたのか、立ち止まるトウヤに倣い、なのはも止まる。そして、目の前にある”もの”を見て感嘆の声を上げた。
 全長数百Mクラス。管理局の基準で言うのならばXL級。縦長の、どことなく東洋の”龍”を連想させるフォルムの艦がそこにあった。これは――。

「現在、アースラのシステムをこちらに引っ越しさせて擬装中だったのだがね。紹介しよう。君達に貸し出す予定のアースラに代わる代艦。”バハムート級、次元戦闘艦”だ」
「次元”戦闘”……?」

 告げられた単語に、違和感を覚えてなのはが彼を見上げながら怪訝そうに呟く。トウヤは朗らかに笑って見せた。

「そう。”航行艦”ではなく”戦闘艦”……戦闘を主な目的として建造した艦だよ。それ故に航行艦とは一風変わった装備を持つのだがね」

 そう言いながら、彼は艦内に入って行く。なのはも続きながらトウヤの説明を聞きつづけた。
 戦闘を主な目的として作られた艦とトウヤは言うが、この艦の通路は広く取られていた。一般の航行艦とさほど違和感が無い程である。物珍し気に周りを見るなのはを尻目に、トウヤは先に先にと向かう。やがて一つの場所へと行き着いた。ブリッジだ。自動扉がトウヤを認識するなり、ぷしゅっと空気を排出して横に開く。中に入ると、すぐに声が掛けられた。

「あ、なのはちゃん」
「なのは」
「はやてちゃん、フェイトちゃん」

 ブリッジの一番上の席。恐ろしくは艦長席なのだろう。そこに座るはやてが、振り向きながら手を振ってくれる。横に立つフェイトも微笑んで迎えてくれた。二人になのははトウヤを伴って近寄る。すると、はやてがトウヤを見るなり苦笑した。

「ども、トウヤさんも今回の迎撃に参加するんや?」
「あくまで保険だがね、私は……今回の主な目的は、君が”これ”を扱えるか否かの検分だよ」
「それなんやけど、この艦のシステムなぁ……」
「なんだね? 気に入らないと?」

 思わぬ言葉だったのか、トウヤは意外そうな顔となる。それに、はやては首を横に振った。苦笑を続けながら、問いに答える。

「いや、なんぼなんぼでも出来過ぎちゃうかな、てな? イメージ・フィードバック・マギリング・システムやったかな? あまりに”私向け”のシステムやったから」
「ああ、そう言う事かね。確かにね。それに関しては私も驚いたものだよ」

 はやての台詞に漸く納得したのか、トウヤは頷きながら微笑む。そして、振り返ってブリッジを見渡した。

「こう言う奇縁もあるものと言う事でいいのではないかね。あまり気にしてても仕方ないよ?」
「いや、それはそうなんやけどな」
「……あの〜〜?」

 そう話していると、横からなのはがひらひらと手を上げて声を二人に掛けた。すぐに二人は振り向く。

「どうしたね? なのは君?」
「その、イメージ・フィードバック・マギリング・システムって何ですか?」
「……ああ、なるほど。ブリッジクルー――君達だとロングアーチだったかね? ともあれ、ロングアーチにしか話しをしていないのだったね」

 見知らぬ単語が出た事で気になったのか。確かに、意味深な名前でもある。それに、先程トウヤが話していた説明も途中だったのだ。気にならない方がおかしいだろう。見れば、フェイトも好奇の目をトウヤに向けている。トウヤは、そんな彼女達に微笑し。

「よろしい! では、君達が今履いている――」
《……トウヤ。ボクがそこに居ないからってセクハラしたら後が酷いからね?》

 何事か言おうとした瞬間、ブリッジのモニターが起動。ユウオの顔がどでかく現れ、トウヤをジト目で睨んだ。――彼は二秒ほど沈黙し、やがてきらりと白い歯を見せてユウオに笑って見せる。その笑顔には、一点の曇りも無い。

「フ……何の事か分からないね? それでユウオ、どうしたのかね?」
《あ、そうだった。さっき敵と目される次元航行艦が四隻、衛星軌道に転移して来たよ……多分、大気圏内に降下する積もりなんだと思う》
「そちらを先に言いたまえよ。はやて君、準備は?」
「こっちは完了や。なのはちゃんが来た段階でオッケーやよ?」

 そちらが本命であったのか、現在の状況をユウオは知らせる。トウヤは肩を竦めて、今度ははやてに問う。それにもすぐに彼女は答え、満足したのかトウヤは頷いた。

「では現時点を持って、この艦は管理局、八神はやて一佐に貸与する事を叶トウヤの名に於いて承認する。八神一佐、異論は?」
「ありません。確かに承りました」

 急に神妙となったトウヤの言葉に、はやてもまた真面目な顔で頷く。そして今度は、ユウオの方へとトウヤは振り向いた。

「ユウオ、ゲート起動。発艦用意。空間転移カタパルトの使用を許可する」
《了解、空間転移カタパルト起動。いつでも出港出来るよ》
「うむ。では、はやて君、後はよろしく頼むよ?」
「……はい」

 ユウオに指示を飛ばして、するべき事は終えたとトウヤは後ろに下がる。変わりに、はやてが立ち上がった。すぅっと息を吸う。

「現時点を持って、この艦は私が預かりました。そして、これよりストラ次元航行艦の迎撃に向かいます! 準備はええな!」
『『はい!』』

 はやての台詞に、一斉に応える声が来る。彼女は微笑すると、キッと前を見据えた。

「ではこれより、バハムート級次元戦闘艦こと、仮称”アースラ2nd”は発艦します!」
《こちら『月夜』管制、了解しました。空間転移カタパルトにアースラ2ndをセットします》

 はやてが言うなり、たった今名付けられたばかりの名を持つ艦(ふね)がゲート内を移動させられる。やがて、アースラ2ndはゲート内のある区域へと到着した。
 空間転移カタパルト。”航行艦・戦闘艦専用の”超巨大カタパルトだ。このカタパルトはその名の通り、空間転移で艦を打ち出すカタパルトである。それを使って、一気にストラの次元航行艦に接敵すると言う訳だ。
 一見乱暴ながら、いきなり艦を戦闘速度に持っていけると言う、まさに戦闘艦での運用を前提としたシステムであった。
 やがて、ゴウンと言う音と共に、アースラ2ndを固定していたアームが外れる。

《空間転移カタパルトにアースラ2ndセット完了。発艦のタイミングはそちらにお任せします。お気をつけて》
「了解しました。ありがとうな。では、アースラ2nd――」

    −轟−

 アースラ2ndの艦尾推進システム起動。スラスターに光が灯り、同時にカタパルトが動き出した。アースラ2ndが僅かに前に動き、そして――。

「発・艦!」

    −破!−

 はやてが叫ぶと同時にアースラ2ndが一気に加速! 直後、空間を”ぶち抜いて”、アースラ2ndの姿が消えた。
 これよりアースラ2ndは敵性次元航行艦との戦闘に入る――!

 
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