魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十九話「約束は、儚く散って」(前編2)
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 なんだ……?

    −閃−

 無数に自分へと放たれた毒針。それに、しかしシオンは自分がどこまでも落ち着く感覚を得た。
 三百六十度、くまなく自分に突き立たんとする殺意の針――本来ならば、それを回避する術は無い筈であった。フィールドを展開して、毒針の速度を遅らせ、裂波で塵に還す。それくらいしか出来ない。シオンの空間把握能力を持ってしても、知覚出来ない毒針もあるのだ。どうにか出来る訳が無い――その筈、”だった”。だが。

 ”分かる”。

 シオンは迫り来る毒針達を前に、そう思う。
 今にも突き刺る筈の毒針達。更に逃げ場を無くすように、追加で毒針が放たれる。それら一瞬ごとに起こる全ての事象が、どこまでも致命的に己の命を侵さんと追い掛けて来る。
 その全て、”発生する事象の必ず一歩先をシオンの感覚は知覚する”。
 まるで、知覚だけが時間の速度を超えたかのよう。その急激な知覚の加速の中で、刀を振るう!

    −閃!−

 一瞬。たった一瞬である。その一瞬で、シオンは”全ての毒針達を迎撃してのけた”。
 毒針達を見もせずに、むしろ物憂(ものう)げに振るわれた刀が、まるで吸い寄せられたように毒針をいなし、さばき、受け止めて見せたのだ。
 ぱらぱらと迎撃された毒針が下に落ちて行く。その中で、シオンは腰に手をやった。すると、そこからするりと刃が滑り落ちてグローブに包まれた手の中に落ちた。
 スローイングダガー。投擲専用の短剣である。その形状は、かのチンクの固有武装、スティンガーにも似ている。それをシオンはバリアジャケットに仕込んでいたのだ。
 暗器等の、隠し武器を仕込める仕様のバリアジャケット、バトルフォーム。それが、シオンの新たな姿の名であった。
 取り出したスローイングダガーをシオンは無造作に投げ放つと。

    −閃−

 迷い無く虫へと突き立った。それを合図にしたように、虫達は羽を鳴らしシオンへと襲い掛からんとして、それより早くシオンは動いていた。

    ―裂!―

 前へと展開した足場に踏み込みながら、刀を振り落とす。その一閃は、容赦無く虫を縦に叩き斬り――止まらない!

「あぁああああ……!」

    −閃!−

    −裂!−

    −波!−

 縦横無尽!
 視認すら許さずに、シオンの刀が虫達を蹂躙する。
 見る必要は無い。いらない。自分が感じた場所に虫がいる。その確信があった。放たれた毒針すらも脅威にならない。容赦無く迎撃していく。
 その異様なまでに澄み渡り、冴えて行く知覚。まるで自分の五感の他に、別の誰かが加わっているかのようであった。
 その知覚が伸び、空間を支配し、虫の動きが全て読み取れる……だが。

 あくまで、勘だ……! この感覚に頼って戦い続ければ、いつか外れる!

 シオンは、その知覚を”勘”と言い切った。所詮はあやふやな感覚の一つでしか無いと。
 そして外れた時が終わりになる。一撃決殺の手段を有するこの虫達ならば確実にそうなる!
 ならば可能な限り早く、一撃で敵を倒していかなければならない。そうでなくては、この戦い方は続けられない。
 そこまで思い至るにあたって、シオンは慄然とした。

 だからこそ、多対一の条件下で、”常に初手の一撃で敵を無力化する”タカ兄ぃや、トウヤ兄ぃの戦い方があった訳か……! そら化け物な筈だ、こんな戦い方をずっと続けられているんだからな!

 納得すると、思考とは別に虫を断ち斬る。それで、近場の虫は全て撃滅していた。それを確認して、シオンは刀を翻し、遠巻きに居る虫に突き付ける。にぃと笑った。

「悪いが――負ける気がしねぇよ」

 言うなり、シオンは刀を突き付けた虫へと駆ける。そんな彼を、まるで恐れるかのように虫達が一気に殺到した。

 
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