魔法少女 リリカルなのはStS,EX
□第四話「独立次元航行部隊」
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「うん、じゃあシオン。君には今、公務執行妨害。並びに騒乱罪。加えて管理局局員に対する傷害未遂容疑がかけられている。これは間違いない?」
フェイトが一つずつ指を立てて、罪状を説明する。公務執行妨害だけでも相当だが、その上二つまで罪状が付くとは。シオンは苦笑し、しかし。
「……はい」
今さら否定するつもりもなく、素直に頷いた。自分がやった事だ。否定に意味は無い。フェイトも、そんなシオンの目を真っ直ぐ見て頷いた。
「うん。それで私達としては事情聴取の上、逮捕って形になるんだけど……」
しかし、そこでフェイトは一旦言葉を切る。そして、じっとシオンの目を見詰めて、静かに告げた。
「でも、君は局員を――スバルを助けてくれたって報告もある」
「いや、あれは……」
言われた言葉を、しかしシオンは否定しようとする。最初、自分としては助けるつもりなぞ更々なかったのだから。だが、フェイトはシオンの否定を切るようにして話しを続けた。
「最初にスバルと会った時はそうかもだけど、二回目の時は違うよね?」
「……」
そう言われて、無言になる。
あれも無意識の行動なので、助けたと言う意識はなかった。しかし、無関係かと言われると、流石に否定しづらくもある。
シオンの反応に、フェイトは頷いた。
「それに、肝心のスバルとティアナからは傷害の容疑を取り消して欲しいとも言われてる。被害者が容疑を取り消すのなら、傷害未遂は無し」
まず立てた薬指を、フェイトは仕舞う。
「続いて騒乱罪。こちらは局員が――スバルの事だね。が、到着するまで危険な暴走生物を止めてくれていたって報告だし、最後には協力してくれてる。……君がどんな想いで戦っていたのかは解らないけど、少なくとも君が戦ってくれたおかげで周辺の住民は避難できた。だからこちらも容疑を取下げるよ」
続けて、中指を仕舞う。これで罪状は二つ消えた。後は一つのみ、だが――。
「でも公務執行妨害。これは消せない」
――人差し指を立てたまま、フェイトはそう言った。シオンも黙って頷く。スバルが同行を要請した時、自分はデバイスを突き付けてまで拒否したのだ。当然と言えるだろう。そんなシオンの反応に、フェイトもまた頷いた。
「……けど、君が今、私達が調べている案件に協力してくれるなら司法取引で減刑出来る」
なる程。と、フェイトの台詞を聞いて、シオンは思う。
スバルとの約束もあったのだ。シオンとしては、”ある程度の情報”は、最初からスバルとその仲間達に教える積もりであった。
「どうかな?」
「はい。その司法取引にのります」
フェイトの問いに、シオンは即答する。それを聞いて、彼女も表情を和らげた。……後に聞いた話しでは、この司法取引を持ち掛ける時が、一番難しいらしく、シオンがあっさりと受けた事に安堵したらしい。ようやく弛緩した空気の中で、今度ははやてが進み出た。
「うん、話しは決まったみたいやね。今度はこっちのお話しや。シオン君、何か探してるそうやね?」
「はい。それは、スバ――ナカジマから?」
頷き、つい名前で言いそうになって、苗字に直す。
それに、はやては苦笑した。
「うん、スバルから聞かせて貰ったよ。それと、スバルとは私達も知り合いやし、名前で呼んでも大丈夫やよ?」
「そう、ですか」
若干戸惑うようにして頷くシオンに、はやては苦笑。うんと頷き返してやり、先を続けた。
「そんでな。多分やけどシオン君。また、その探し物する為に、あの暴走生物追っかけるつもりやろ?」
「……」
問いに、シオンは沈黙。しかしそれは、この場では肯定と同じであった。
そんなシオンに、はやてはやっぱりと思い、そして本題に入る。
「それでこれは私からの提案や。シオン君、嘱託魔導師になってみらんか?」
「……嘱託魔導師?」
魔導師はともかく、頭の嘱託の部分にシオンは訝しむような顔となった。彼の疑問に、はやては微笑する。
「嘱託魔導師制度言うてな。民間人でも協力者として、管理局員のお仕事が出来るんよ。これやったら情報も集まるし、戦える。君にうってつけやと思うんやけど」
説明を聞いて、成る程とシオンは理解した。
正式に局員になる訳ではないらしい。ならば、自分にとっては願ってもない事である。勿論、彼女達――時空管理局としては、含む所もあるのだろうが、これは破格の扱いと言っても良かった。
「シオン君、どやろか?」
「そうっスね。はい、なります」
迷わずシオンは頷く。何かあれば、その時はその時だ。その答えを聞いて、はやては笑みを浮かべた。
「うん。早く話しが決まって、良かったわー。そんなら、はいコレ」
朗らかな笑みと共に、はやてがシオンの傍らに何らかの本を置いていく。一冊、二冊――と。どれも、見るからに分厚い本達である。某町ページのような厚さだ。それを見遣って、シオンは呆然と聞いてみる。
「……これ、何スか?」
「嘱託魔導師になるんには試験を受けなアカンのよー」
あっさりと、はやては質問に答えてくれる。しかし、何故かそんな彼女の優しい優しい笑顔に、とても嫌な予感をシオンは覚えた。
「……あ、あの――?」
「安心しぃ。試験は学科と実技と面接。実技はさらに儀式魔法と、模擬魔法戦での試験があるけど、これから家庭教師付きで教えたるから♪」
とてもとても、いい笑顔ではやてが言う。……冷や汗を背中が流れていくのを感じた。
「フェイトちゃんが学科と面接を。頼めるかな? フェイトちゃん」
「捜査協力で話しを聞かせて貰ってからだけど。うん、任せて」
フェイトもまた、はやてと同じ類の、いい笑顔を浮かべる。シオンの経験上、この類の笑顔を浮かべられた時はろくな目にあった覚えがなかった。
「儀式魔法は私が教えたる。安心し。厳しくもしっかり教えたるから」
「えっとあのー……」
……やっぱ考え直してイイっすか?
それを言いたかったのだが、聞いてくれる気配がない。はやてはゆっくりと、しかし抵抗を許さぬ速度で話しを進める。
「模擬魔法戦は、もちろんなのはちゃんが。あ、シオン君はまだなのはちゃんの事分からんな? ちゃんと、紹介したるから安心しぃ」
「いや、ちょ、待……っ!」
ついに声を上げようとする――が、機先を制して、シオンが何か言う前にはやては指を付きつけた。
思わず黙った彼に、彼女はにっこり笑い。
「試験は一週間後や♪ みっちり行くからな〜〜♪」
……退路がない事を、その台詞から理解して、シオンは絶句する羽目となった。
そんな少年に、フェイトが苦笑いを浮かべる。
「えーと、それじゃシオン。いろいろ聞かせて貰うけど、いいかな?」
「……はい」
ついには色々諦め、取りあえず先の事は置いといておくとして、シオンは気持ちを切り替える事にした。