魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第五十話「戦士と言う名の愚者達」(中編2)
1ページ/5ページ

 
    −煌−

 紅に世界が染まる。
 その紅は炎の色、神庭シオンが放った儀式魔法、炎界(ムスペル)が生み出した炎であった。
 発生した炎は天と地を繋ぐかのような巨大な火柱となって崩れいくビルを丸ごと包み込んだ。地面に落ちて行っていた鉄筋コンクリートも容赦無く巻き込み、弾き飛ばしてだ。
 もし結界が張っていなかったと考えたらゾッとする。それだけの広範囲に渡って火柱は顕現したのだった。
 やがて、火柱は空に吸い込まれるようにして消えて――それを見送りながら、『ドッペルシュナイデ』隊長のギュンターは歯噛みしていた。
 先の炎界、威力は大した事は無い。せいぜい、A〜〜AAランク程度の威力しか無かった。当然、フィールドを張れば防げる威力であるし、ギュンターもクリストファも、向こうのエリオも無事だ。
 だが、問題はその効果範囲であった。ビルを丸ごと飲み込むほどの広範囲魔法。つまり、彼等が戦っていた戦闘空間は丸ごとあの炎に飲み込まれていた事になる。そう、ビルの破片を悉(ことごと)く焼き払ったように、”あの場に居た全てのモノ”が攻撃を受けたのだ。それは当然、ギュンターの固有武装。魔虫(バグ)も含まれる。魔力放出だけで墜とされる魔虫も!

「これで厄介な虫共は消えた」

 真っ正面から放たれた声。その声を聞いて、ギュンターはぞくりと言う感覚を得た。そこに居るのは、炎界を放ったシオン! 彼はギュンターを真っ直ぐ睨みながら刀を緩やかに構えた。すっと細められた目がギュンターを捉える。
 空間に足場を展開し、一歩を踏み出した。走る!

「終わりにしようぜ! この戦いを!」

    −轟!−

 叫ぶと同時に、シオンは矢の如く弾けた。真っ直ぐにギュンターに向かう! 対し、ギュンターはシンクラヴィスを吹き鳴らし、衝撃波を発生させ。

「っせぇ!」

    −斬!−

 一刀の元に斬り払われる!
 唐突に任意の空間に発生する音衝撃波がだ。どのような原理かは不明だが、シオンはこちらが発生させる衝撃波の位置を特定出来る。先もそうだったが、今もあっさりと斬られてしまった。
 あの衝撃波の利点は、どこでも唐突に発生させられる奇襲性にこそある。それが位置を特定されるようでは話しにならない。
 シオンには、もう音衝撃波は通じない。魔虫も全滅させられた。

 ……仕方ない、ねぃ。

 思わず苦笑をギュンターは浮かべる。まさかここまで追い詰められるとは思わなかったのだ。しかし結果はこの通り。ギュンターは今、シオンに追い詰められている。どうしようもない程に……ならば。

 ”こちらも切り札を切らなきゃいけないねぃ”!

 そう思うと同時、シンクラヴィスを吹き鳴らす。厚く、厚く、重く、重く。サキソフォーン独特の音色が鳴り響き、それは起きた。
 周囲の空間が歪み、ギュンターの前方に集束していく。まるで吹き鳴らされる音に共鳴するように。
 ここで、一つの例え話をしよう。音と言うのは空気や水……あるいは空間そのものを震わせて発生される。つまりは振動波だ。極論となる事を覚悟して言えば、音は振動波に他ならず、振動波でしかない。だが、逆に言えば振動波であるからこそ出来る事がある。
 思い出して欲しい、スバル・ナカジマのIS、震動破壊が何故にあれ程恐れられていたのかを。振動と言うのは、モノを震わせる事で発生する。当たり前の事だ。だが、これを高速で発生させればどうなるか?
 ”分子結合を解く程の高速振動をモノに与えればどうなるか?” ”それを空気では無く、空間を震わせる事によって発動させればどうなるか!?”
 音叉(おんさ)。楽器の調律に使われる道具であるが、ギュンターの前方に集束していく空間はまるで、それを思わせるかのように震える。
 ぃぃいん……と、静かな音が響き、そして――。

「っ――――!?」

 ――瞬間、シオンはアルセイオ・ハーデンの斬界刀に対峙した時程の寒気と恐気(おぞけ)、吐き出しそうな程の恐怖を覚え、慌てて、その場の空間に足場を発生させ静止。全力で、それこそ死に物狂いの全力で左側へと逃げる! 直後、”それ”は発動した。

    −轟−

 一切の音が、消え――。

    −裂!−

 ギュンターから放たれた”何か”が、走り貫ける!

    −斬!−

 そして、結界に覆われたロンドン市内は真っ二つに叩き斬られたのであった。

 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ