ありきたりな恋歌

□第二場面
1ページ/10ページ


 次の日の朝。

 ぼんやりと、目の前を見つめる。顔のすぐ横に、枕、見えるのは、自分の部屋。起き抜けの私はぼんやりとベッドから起き上がった。

 身体が、重い。

 妙にベッドが恋しくなって、私はまたベッドに寝転ぶ。

(いや、駄目……。起きなきゃ)

 私はもう一度ベッドから身体を起こし、洗面所に顔を洗いに行った。

 身支度も終わり、目も覚めたところで私は慶治くんの部屋に向かった。

「慶治くーん。起きてますか?」

 ドアを叩き、部屋からの物音に耳をそばだてる。

「慶治くん?」

 物音がしない。返事がない。私は部屋に突入することにした。

「慶治くーん! 朝です。七時です。起きてますよねえ?」

 ばっと扉を開けると、客用の布団の中に寝惚けた顔の慶治くんがいた。因みに客用布団は家具の中に混ざっていたものである。

「慶治くん、駄目じゃないですか。もう七時です、起きないと」

 私は何となく慶治くんの布団に飛び込んだ。

「え……? うわ、スーちゃん?」

 布団越しに慶治くんに馬乗りになる。

 布団と触れた太ももが熱い。でも、なんだか布団がいつも以上に恋しい。

「『うわ』、なんてひどいです。慶治くん、もう朝です。起きましょう」

 言葉とは裏腹に私の身体は布団を求めていて、馬乗りでは飽き足らず、慶治くんに覆いかぶさるようにして寝転んでしまった。

「え。え? え! ちょっとスーちゃん! なんで僕の上にいるの!」

「起こしに来たんですよー」

(でも、なんだか疲れた……)

 私はのっそりと起き上がり、慶治くんの布団を剥いだ。

「わ、わかった。起きる起きる起きる!」

 何故か慶治くんの顔が赤くなっている。従妹に起こされるなんて照れ臭いのだろうか。

 でも、私は起きるという慶治くんの言葉を不満に思ってしまう。

(なんか、起きるのやだなあ)

「やっぱり、起きなくていいです」

 私は剥いだ布団をまた掛けることにする。今度は、布団の下に自分の体を押し込んで。

「わ、ああああ! なんで入ってくるの! 起きるから、起きるから!」

 布団の中は、暑い。でも、身体を横にすると随分気持ち良かった。薄い布越しの慶治くんの肌は熱いほどだったけれど、人肌も気持ち良い。

「慶治くん、起きなくていいです。一緒に、寝ましょう?」

 布団の中に一人増えたせいで、とても暑い。そのせいで慶治くんの顔は真っ赤だ。私も赤くなっているかもしれない。

「え、えええええ! え! そうなの!? いや、駄目だよ!?」

 顔が赤い慶治くん。何が駄目なんだろう。

「慶治くん、五月蠅い……」

 慶治くんの声が頭に響く。痛いほどだ。私は慶治くんの胸に顔をうずめる。手を回し、ぎゅっと力を込めた。

「お願いです」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ