invisibile stella
□Arcana Famiglia
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青空に白い雲が漂い、うみねこが鳴く。
孤島レガーロ島は、まさに今日晴天。
そんな中、ある店でイズミは商品を吟味していた。
「ロズマリーノに、ラヴァンダ。チトゥロネッラは多めに、カモミッラは……まだあるな。あっ、ゼンゼロとシソってあるか?」
店の奥に呼びかけるように言えば、呆れ口調の声が返ってくる。
「はいはい。ちゃんとあるから一度に注文するんじゃないよ。」
「だって、覚えている間に注文しないと、なぁ?」
「だったらメモなり取っておいでよ。」
「……そのメモを忘れた。」
ぼそりと顔を逸らして呟かれたイズミの声を、奥から出てきた中年の女性はしっかりと聞いていた。
「まったく、あんたは妙なところでそそっかしいね。ほんとにそれでアルカナ・ファミリアの一員なのかい?」
会計台の上にイズミの注文の品を並べながら、女性はやれやれと肩を竦めた。
イズミは会計台に寄りかかり腕を組むとふんと鼻を鳴らした。
「生憎、れっきとしたとアルカナ・ファミリア医療部幹部を担ってるよ。」
「その幹部が買い出しかい。大した身分だね。」
「……ローラ、相変わらず口が悪いな。」
「お互い様さ。」
イズミが半眼で言えば、女性──ローラはにやりと笑って返した。
ローラはこの『エルボリステリーア(ハーブ専門店) ローラ』の店主である。
交易で栄えるレガーロ島だからこそ、各国から様々な種類のハーブを取り寄せ、扱うことができるのだ。
「買い出しなんか部下に頼んだらどうだい?」
「医療部は部下なんているようでいないもんだ。それに材料は自分で吟味した方が安心なんだよ。」
元々部下を持つような柄じゃないからちょうどいいと、イズミは小さく笑った。
「それに、ファミリーのやつらはみんな丈夫だから、医療部自体よっぽどのことがない限り暇で気楽なもんだ。」
「それで毎日薬作りかい?」
「薬、香水、化粧水その他もろもろ。結構評判いいんだぞ?」
得意気に笑うイズミを、ローラはやれやれと笑った。
「そんな実験ばっかりしてると、いざという時に役に立たないなんて、とんだお笑い草になるよ。」
「そこらの分別はあるよ、さすがに。」
返答して、イズミは手近にあったハーブを摘まんでくるくると回した。
鼻を通る爽やかな香りが鼻腔をくすぐった。
「だと言いんだがね。……さて、注文の品は以上かい?」
「どれどれ……。うん十分だ、ありがとう。おっ、瓶もある。さすがローラ、言わなくてもわかってる。」
「長い付き合いだからね。詰めていいかい?」
「あぁ、よろしく頼む。」
はいはいと返事をして、ローラは品を茶色の紙袋に詰めていった。
その間、イズミは店内を見て回った。
しばらくして、ローラがイズミを呼んだ。
「できたよ。」
「あぁ、ありがとう。」
一抱えになる紙袋を見てイズミは代金を出そうとポケットを探る。
ところが、突然ローラが声を上げた。
「そうだ、ちょっと待ってな。」
イズミの答えを聞かないまま、ローラは店の奥に引っ込んだ。