小説

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晴香。



そう呼ばれ振り返ると、私の側に赤司くんが立っていて。


なんだろうと思っている暇も無く、私に告げた。




「不味い飯は食べないからな」


『……はい』




分かったね、とでも言うような細めた瞳に
私はただただ頷く。


すると満足そうにその場を立ち去り、テレビもついていない2人だけの静かな空間に再びペラっと紙を捲る音が聞こえた。




拝啓、お父さんお母さん。

どうしよう。
この家に住み着いた鬼がメチャクチャ怖いです。










【あの暑い夏の日の想い出 4】















ぱっちりと目が覚めてしまった今、私はすることもなく本を読んでいる。

赤司くんも同じように本を読んでいるけど、お父さんの部屋にある哲学関係の本で。



同じ高校生なのにと落胆したが、赤司くんだからという理由で気にしないことにした。



確かにこれは理由じゃない。

でも、何故か納得してしまうのだ。




しばらくお互いその状態でいたが、ぐぅぅと私の腹の虫が鳴ったので、普段より早めの朝御飯を作ることにした。


もちろん、お腹が鳴ってしまった時は鼻で笑われた。



顔から火が出るほど恥ずかしかったよ!



そんなこんなで調理場に入り冷蔵庫から食材を出す。



無難に味噌汁とご飯にしようか。



そう思っているときに赤司くんが声をかけて、冒頭に至る。



不味い飯は食べないからな=不味い飯は作るなよ=作ったらどうなるか分かってんの?=死ぬ覚悟は出来てるよね?的な感じっすか赤司くん。


なんというか、これが冗談ですまされないから怖い。

だから私は全力で朝食を作った。
今までで一番美味しくできたと思う。




『………どうかな?』


「普通だね」




普通かぁ。
ちょっと残念だけど、不味いよりは断然いい。


その後は、お互い何も会話は交わさずに黙々と食べた。

先に食べ終わったのは赤司くんで。




「これから料理は君に任せるよ」




それだけ言うと席を立ち、お皿を調理場へ片しに行ってしまう。


リビングに取り残された私は、その言葉が無性に嬉しかった。



赤司くんに認めてもらえた。



それだけのことなのに、とても気分がいい。

両親に誉めてもらう時とはまた違った優越感に浸っていた。













その後は何事も問題はなく昼、夜も無事にご飯を食べることができた。

だけど。
ご飯でいっぱいいっぱいだった為に風呂のことをすっかり忘れていたのだ。


流石に下着は変えないと不味いだろう。


だから今日はお父さんの部屋にあった新品の下着を使ってもらうことにした。


でも、サイズが合ってなくて文句を言われたから明日買いに行こう。




「じゃあおやすみ、晴香」


『うん、おやすみ』




赤司くんはお父さんの部屋で寝るらしいので、私達は部屋の前で別れた。


がちゃりと部屋を開けると、少し蒸し暑い空気が充満していたので窓を開けた。

夜だからか涼しい風が部屋に入り、気持ちがよい。



今日はいろいろと濃い1日だったなぁ……



とても疲れていたのか、思い返す暇もなく私は夢の世界へと落ちていった。







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赤司くんにご飯作ってあげたい。
殺される覚悟で。



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