小説

□5965
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7月20日。今日は終業式である。

HRが終わったあと、私は委員会の先輩であるリコさんに屋上へ呼び出された。



なんだろう。
なにか悪いことでもしたかな。


そう、不安を抱いている私に放たれた言葉。




「伊月くんの彼女役をしてほしいの」




もちろん私は、間抜けな声しかあげられなかった。










【あの暑い夏の日の想い出】















お昼食べたら、また屋上に集合ね。


リコさんはそう言って、私を追い返した。



昼御飯、ねぇ。
家に帰っていいのかな?

いや、駄目か。



自問自答を繰り返していると、ふと視界が暗くなる。


危ないと思ったのも束の間で、誰かにぶつかった。




『す、すみませ………』


「あれ? もしかして君が松並さん?」




優しく受け止めてくれた男子生徒は、リコさんが言っていた伊月先輩で。



面倒事は嫌だから断ろう。



そう思い、ありがとうございますの後に言葉を続けようとしたら遮られてしまった。




「相田から聞いたかな? 迷惑は承知で頼んだ。だからお願いする。今日1日だけでいいから付き合ってほしい」




そう深々と頭を下げられ、申し訳無い気持ちでいっぱいになる。


年下の私に頭を下げてまで頼み込むと言うことは、相当大事なことなのだろう。


それを拒むことなど、私には出来なかった。




『分かりました。だから顔をあげてください』




するとぱっと顔を上げ、素敵な笑みを浮かべて私の手を握る伊月先輩。


この人はモテるな。


すぐにそう思った。













『それで、私は彼女の振りをしていればいいんですよね?』




お昼御飯を食べた後にそう聞くと、伊月先輩はコクリと頷く。



彼女の振り、かぁ。
なんか嫌だな。



絶対にこの人を好きな人は沢山いる。
言わば伊月先輩は、この学校の黄瀬くんポジションの人だろう。


ただそれだけ。

ふと思っただけなのに、あの時の記憶が鮮明に蘇り体が震えた。



やっぱり断った方が良かったかな。
でも了承しちゃったし、やっぱり最後まで受け持った仕事はやりとげたい。


これは自分の意地だ。



まだまだ餓鬼だなぁ、私は。



悔しくなってぎゅっと拳に力を加えると、それに気付いた伊月先輩は私の手を優しくとった。




「大丈夫。俺に任せて」




ふんわりとした笑みで手を引かれ、私たちは色々な所を回った。


途中からは悔しさも惨めさも全部忘れて。

久しぶりにショッピングをしたから、心から楽しめた。















太陽が辺りをオレンジ色に染め始めた現在、私は公園のベンチで伊月先輩を待っていた。



何処に行ったんだろう。



それから5分程経つと、向こうからってくる姿を視界に捉えた。




「お疲れ様。ありがとう」


はい、今日のお礼。

そう言って渡された缶ジュース。

リコさんが教えたのか知らないが、私の好きなリンゴ味だ。




『いえ、お役に立てたのなら光栄です』




それから、しばらく世間話に花を咲かせ、そして別れた。


伊月先輩はとても優しい人。
だけどあのギャグは、なぁ。



誰にでも何かしら欠点はある。


改めてそう感じた日だった。







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足跡2965のお礼作品です。
これからもよろしくお願いします!


この作品はギャグでもないし、甘くもないし、シリアスでもない。
なんか微妙な感じですね。
だが後悔はしてない(キリ


………すいません、嘘です。
全力で後悔してます。


これの伊月くん視点は10965にて掲載する予定。


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