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□君と花と告白
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「付き合ってください」


握った小さな手を辿るとWなに言ってんだこいつWとでも言いたげな微妙な顔をした女の子がいた。
ちなみにここはムードもなにもない、萎びた雑草くらいしか生えていない荒れた裏庭の花壇の前です。

付き合って、なんて言うつもり全然なかったのに。一体、どうしたと言うんだろう、俺は。たぶん俺が一番びっくりしている。


「あ…」

『………』


そっと手を離して、目をそらして、首の後ろをかいた。
どうすればいいんだろう、この雰囲気。大宮さんも何か反応してくれればいいのに。彼女は何を考えているかわからないいつも通りの無表情に戻っていた。

廃れた花壇を色んな花でいっぱいにする。そう言って土で指を汚す大宮さんが、なぜだかすごく綺麗に見えて。一瞬で堪らなく愛しく感じた。

だからっていきなり「付き合ってください」は、我ながらぶっ飛んでいる。

花壇をみつめたまましゃがみ込んだ俺たちの間には、見えずとも気まずい空気が漂っている。それを打ち消してくれたのは、渇いたチャイムの音。

ふう、と息をついた大宮さんが腕で頬を拭うとその頬に土がついて、俺はカーディガンの袖でそっと大宮さんの頬に触れた。きゅっと目を閉じて顎を引く大宮さんに少しドキッとしたことは否めない。

けれどもしかし、大宮さんとは同じクラスで同じ緑化委員会で、でもそれだけであんまり喋ったりしたこともないと思うし、考えれば考える程に自分の「付き合って」発言が信じられない。


『手…』

「え」

『汚れたでしょ』

「あ…いや、だいじょぶ」


そう。と、自分の手をパッパッと払った大宮さんは、本当に表情が読めない。自分のことを棚に上げて、冷めてるなぁ、と思う。

なんとなく教室まで一緒に行って、カバンを手にまた一緒に校門を出る。帰路につく生徒はまばら。


『んーと…』


少し歩いたところでピタリと立ち止まった大宮さんが神妙な面持ちで顎に手を当てて首を捻った。何を言うかと思って見ていたら、はい、と手を差し出される。


「え?」

『手、つなぐ?』

「…あ、え、え?」


戸惑う俺の手をなんとも男らしく握った大宮さんは少しだけ微笑んだ。
なんか、悔しいな。大宮さん、余裕って顔しちゃってさ。俺だけこんな顔緩くなってるし。

小さな手を握る。
ちゃんと、告白しなおそう。

花屋さんに行って、君に似合いそうな花をプレゼントして。
そんならしくないことを考えちゃうくらい、たぶん俺は大宮さんのことが好きだから。

ちゃんと好きです、って、伝えたくなったから。




*君と花と告白*end

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