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□ラブパレード
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浅羽兄弟とは家が隣で両親の仲も良くて、生まれてから顔を合わせることが自然と多くて、幼なじみというよりも兄弟といってしまった方がなんだかしっくりくる気がする。
私がなんとなく双子の部屋にいることもあれば、悠太か祐希、あるいは双方が私の部屋に自然といることもある。特に用がなくてもなんとなく一緒にいた。

しかし、この頃なんだか様子がおかしい。特に双子の弟の方。そしてたぶん、私も。

最近、私の部屋に来るのは祐希だけになって、私と祐希は戯れるようにキスをするようになった。何の意味もない、感情もない、言葉もないキス。どっちからしたかなんて覚えてない。祐希からだったような…もしかしたら私からだったかも。とかそのくらい曖昧になってしまっている、私と祐希のはじめてのキス。

私たちは17歳になっていて、たとえ兄弟みたいな存在でも結局男と女で、そういうことにも興味が湧いてきて、そんな私と祐希の波長がたまたまピッタリ合ってしまった。そんなところだ。

私の部屋にいる祐希は薄ピンク色のカーペットに寝転がり、自分の部屋から持ってきたマンガを読みふけっている。なんでわざわざ私の部屋でマンガ読むの、しかもそんなもう何回も読んだようなマンガ。とか思うけど、聞かない。
私も祐希のそばに座り、読み捨てられているマンガを拾ってパラパラとめくる。なんでもないこの時間が、この空間が、私は結構好きなんだ。

やがて、祐希が読んでいたマンガをパタンと閉じると、その音で空気が変わる。その音で、私の心臓がドキッと一回大きく鳴る。両手をついてむくりと起き上がった祐希の手が、私のマンガを開いていた腕に置かれた。

やっぱり言葉はないけど、近づいてくる顔に目を閉じることしか知らない私は、素直に祐希とキスをする。柔らかいのに程よく弾力のある唇は少し湿っていて温かい。私の後頭部に伸びてきた手のひらが、夏に向けて少し短めに切った髪を撫でた。

いつもより少し強く押し当てられた唇が角度を変え、私の唇を割ってぬるっとしたものが入ってくると、思わず声を漏らし肩をすくめた。全然違う。いつもとは全然違うキスだ。唇の隙間から漏れる声が、私のものじゃないみたいに響く。視界が反転して、そっと背中がカーペットについた。

『…っ、なに、して…!』

私の顔の横に手をついた祐希がいつもの無表情で私を眺めていて、急に恥ずかしくなってくる。というか、悔しい。なんで祐希はそんな余裕そうなの。口を腕で隠すけど、その腕はまた祐希に掴まれた。

「沙奈はさ、」

至近距離で、私の唇に息を吹きかけるように囁く祐希に背筋が震える。

「俺以外の人とこんなことしちゃダメだから、ね」

どうしたというのだろう。今までそんなこと、そんな独占欲丸出しの発言なんてしなかったのに。そして、そんなこと言われて嬉しいとか思う私も、どうしたというのだろう。死ぬんじゃないだろうかと思う程、激しく心臓が脈打つ。

『な……、なんで、ですか…』

なんでこんなにドキドキしてるんだろう。なんでこんなに顔が熱いんだろう。なんで敬語なんだろう。この質問の答えに、なにを期待しているんだろう。私は。

ちょっとムスッとした祐希が両腕を突っ張って、お互いの顔が良く見える距離まで離れた。祐希の邪魔そうな前髪が重力に従って私の方に垂れていて、その表情がよく見える。

「じゃあ俺が他の女の子とこういうことしたら沙奈はどう思いますか」

…もう。なにが「じゃあ」なのか。ホント素直じゃない。きっと祐希も私のことそう思ってるだろうから、どっちもどっちなんだろうけど。たぶん、きっと、私と祐希はおんなじ気持ちを抱えている。

『…やだ。ぜったい、やだ…』

恥ずかしくて、恥ずかしすぎて、顔の横につかれている祐希の手におでこを擦り付けた。一瞬横目に見た祐希は、そんな私を満足そうに見下ろしていた。

「そういうこと、です」

『……ん、』

こくん、と頷くと祐希と私の距離がなくなって、ぎゅうっと体重をかけられる。ちゅう、と耳の裏にキスされて鳥肌が立った。

『っちょ、重…っ!潰れるぅ…っ』

ふふ、と祐希の息が首筋に当たってくすぐったい。身をよじると、祐希に唇をふさがれて余計苦しくなった。私の心臓と祐希の心臓が共鳴してドクドクいってるみたい。そうだ、この人顔に出ないだけで全然余裕なんかじゃないんじゃない、と思わず笑ってしまった。








*ラブパレード*end

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