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□キスして触って抱きしめて
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物心つく頃から一緒にいた祐希が、彼氏になって3ヶ月経った。

いつものように祐希の部屋でゴロンと寝そべって、もう何回読んだかわからない漫画をパラパラめくる。
祐希は少し離れたところで背中を丸めてアニメージャをめくっていた。

キスは付き合った日にしてみた。
本当にWしてみたWって感じのものだった。
キスしたあとは、お互いなんか恥ずかしくて顔が見れなくなってしまって、それ以来何もない。

チラリとこちらに視線をおくってくる祐希と目が合って、ドキリと跳ねる心臓。
なんだか気まずそうにまた漫画に目を落とす祐希を見逃すはずもなく、あたしは『なに』と口にした。

すると、祐希がまたあたしを見てからノロノロと動きだし、あたしの前にちょこんと正座する。
なんとなくあたしも起き上がって祐希と向き合うように正座した。

ジッ、とお互い見つめ合う。


『…なによ』

「えーと…あの、ですね」


…なんだかモジモジするように身体を揺らす祐希を微妙な顔で見つつ、少しドキドキしていた。


「…さわってもいい?」


しばらく待っていると、祐希があたしを指差してそう呟いた。


『さわ…?え?なにを?』

「…だから、それ」


あたしに向けられている人差し指を更に近づけてくる祐希に、目を見開いた。

む、胸!?
胸触らせろってか!?

まん丸に見開いた目で祐希の変わらぬ表情をマジマジと見つめる。


『……えーと…』


動揺を隠しきれないあたしに、祐希が首を傾げる。
だめ?って目で訴えられる。
なんで表情変わらないのにこんなに表現豊かなんだ祐希は。

あたしがその目に弱いって、その目で見られたら断れないって、祐希はわかってる。


『いい、けど…服の上からなら』

「…服の上?」


えぇ?と眉を寄せる祐希を睨みつけた。


『あんた、まさか直接触る気だったわけ?』


あたしの問いかけに躊躇なくコクンと頷いた祐希の頭を、バシン!と叩く。
いたー、と頭を押さえた祐希。


「ジョーダンなのにー」

『ジョーダンじゃなかった!顔が!』


唇を尖らせる祐希の前に再び正座し、気を取り直す。


『触るなら早くしてよっ』


恥ずかしいんだから…
ぐっと膝の上の手のひらを握りしめて、限界までうつむいた。

そっとあたしの胸の膨らみを祐希の手が覆った。
祐希の手が、大きく感じる。


「………」

『………』


どうしよう、どうすんのこれ。
触るって一瞬かと思ってたのに、祐希の手のひらはあたしの胸に乗っかったまま、微動だにしない。

おそるおそる顔を上げると、目の前に祐希の綺麗な顔。
途端にあたしの顔面が火を噴いた。


『…い、いつまで触ってんのよ』


もしかして、胸触ったら心臓の音も聞こえちゃうのかな。
だとしたら恥ずかしすぎる。

ドキドキしてるのバレバレ…

キュッと祐希の手のひらに力が入って、あたしの胸に伝わった瞬間、電流が走ったみたいにビクッと全身が震えた。

そんなあたしの反応を見て、祐希がいつもより目を大きくしてマジマジと見つめてくる。


『ちょ、ちょっと…』

「なに、今の」

『な、なにって、何が!?』


しどろもどろになって視線を泳がせるあたしはパニックに陥っていた。

もういいでしょ!と、遠くへ押しやる祐希の顔は不満気だったけど、あたしがこれ以上は耐えられない。


びっくりした…
離れてく祐希にホッと胸を撫で下ろす。

…けど、終わったらさっさとアニメージャをめくりに戻る祐希にイラッとした。

近づいて欲しくないけど、そばにいてほしい矛盾。

…なんなの、あたし。


『祐希』

「ん?」


背中を丸めた祐希の後ろにちょこんと体育座り。


『…ねぇ』

「はいはい、なに?」


やっとアニメージャからあたしに視線を向ける祐希に向かって両手を広げた。


『ぎゅーってして』

「………」


何も言わないまま、祐希がぎゅーっとあたしに腕を回した。
はーっと息が漏れて力が抜ける。
良い匂い…落ち着く。

変なの。
そばにいるとドキドキするのに、抱きしめてくれると安心する。

っていうか、胸触る前にキスしてくれてもいいんじゃないかな。
…まぁいっか。



あー、なんか…


幸せだ…。


はふーっと祐希の肩に顎を乗せると、祐希が頭を撫でてくれた。






*キスして触って抱きしめて*end

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