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□My Little Girl
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お鍋の中のカレーに浮かぶ、ゴロゴロのジャガイモやニンジンがコトコト踊る。

スパイシーな匂いに包まれながら、エプロン姿でキッチンに立つあたし…!これぞ新妻って感じ!

コンロの火を止めてリビングのソファーに寝転がる。
思い切り深呼吸すると、今度はこーちゃんの香りに包まれた。

ふにゃりとニヤける顔を押さえて、ひとり悶えるあたしは相当ヤられてる。こーちゃんに。

ガチャっと玄関の扉が開く音がすると、ピンっと飛び起きて一目散に玄関へお出迎え。


『おかえんなさーいっ!』


ピョンっと飛びつくあたしを受け止めてくれたこーちゃんが、困ったように笑った。


「ただいま」

「たっだいまー♪」


突然、こーちゃんの広い背中からヒョッコリ姿を現したのは、あきちゃん。

あきちゃんを変な顔でマジマジ見つめてから、そのままの視線をこーちゃんに移した。

あたしの最大の天敵!
お邪魔虫のあきちゃんがなぜここに!?

聞いても理由は特にないことくらいわかってる、けども!


『どちらさま?』


ニッコリ微笑んだあたしの言葉に、こーちゃんは苦笑い。
あきちゃんが唇を尖らせてプリプリ怒った。


「もーひっどいなー!たった数日間会わないくらいで忘れちゃった?あきらお兄ちゃんのこと」

『言っとくけど、あきちゃんのことお兄ちゃんだなんて一度も思ったことないからね』


ツーンと目を釣り上げるあたしの横をするりとすり抜けて、あきちゃんは無邪気な笑顔で振り向いた。


「あ、いい匂いするぅ!カレーだカレーだっ!」


って、おい!
人の話聞こうよ!


『こーちゃん!なんであきちゃんがっ!?』


今日は、結婚記念日で温泉旅行へ行ってしまった両親の代わりに、こーちゃんにお世話になる予定だった。
つまり、お泊まり。これ一番重要。


『バカーっ!せっかくこーちゃんと二人っきりになれるチャンスだったのにぃーーーーー!!』

「ホラ、早く食べようよー!僕お腹ペコペコなんだよねー!」


ちゃっかり座って、テーブルをバシバシ叩くあきちゃん。マイペースも程々にしてほしい。

キッ!とこーちゃんを睨みつけると、こーちゃんは少しおどおどしながら「じゃ、じゃあカレー食べようか…」と咳払いをした。

…こーちゃんのバカ。

こーちゃんは最近、あたしとふたりになるのをことごとく避けている。もの凄くそんな気がするのです。


「ねぇ、なんでカレーなの?この前きた時もカレーだったよね。もしかしてカレーしか作れないの?」

『…………』←ムカっ

「あ、あきら!こぼれてるこぼれてる!」


こーちゃんが、あきちゃんの口と服を慌てて拭った。
子供か…っ!?

ムッカー!
どーせあたしはカレーしか作れませんよーだ!
こーちゃんも、なんであきちゃんなんか連れてくんのー!?
信じられない信じられない!

まぁ…こーちゃんとあたしは、実の所、ただのお隣さんで…

『おっきくなったらこーちゃんのお嫁さんになるね?』「うん、いいよ」なんて美しい思い出の中の約束を今だに信じているあたしも十分子供だ。そんなことはわかっている。痛いくらいに。


「もー!いつまで怒ってるのー?言っとくけど、今日はこーちゃんに頼まれて来てあげたんだからね!」

「あきらっ!」


ご飯粒を頬につけたあきちゃんが、口をモゴモゴさせながらそんなことを言った。

ガーンと顔面蒼白のあたしを気まずそうに見て、こーちゃんが「ち、違うから」と手を振った。


『…こーちゃん、そんなにあたしのこと嫌なの?そんなに、ふたりになりたくないの?』

「…あのね、沙奈、」

『あたしは今でもこーちゃんのお嫁さんになりたいよ。小さい頃の口約束だってわかってるけど、こーちゃん何も言ってくれないじゃない…。嫌なら嫌って、拒絶してくれないと…』


ちゃんと言ってくれないと、わかんないよ…

こーちゃんのメガネの奥のまん丸になった瞳が、あたしの歪んだ顔を映した。
あきちゃんが、あたしとこーちゃんを交互に見てため息をつく。


「ちょっと、落ち着きなよー。まぁ、この際にふたりで話し合うのもいいんじゃないの?」


ねぇ、こーちゃん。ってこーちゃんに目を向けるあきちゃんにキョトンとするあたし。

こーちゃんは「そう、だね」って頷いた。

え…何。まさか。
あたしフられちゃう…!!

今更ながら、泣きそうです。
じんわり熱くなってくる目頭を手で押さえた。


『こ、こーちゃん…』


声が震えるけど、フられる前にこれだけは言わせて。


『…大好き、です…っ』


その一言をやっとのことで言うと、涙がぶわっと溢れた。

わかってるもん。こーちゃんだって若く見えてももう三十路近いし、17歳のあたしなんてガキの中のガキんちょだ。
こーちゃんの優しさに溺れているだけの、子供。


「なに泣いてんの?っていうかホラ、こーちゃんも黙ってないで何か言ってあげないと!大人なんだからさぁ」


うるさいな、バカあきら!
空気読んで黙っててくれないかなぁ!

キッとあきちゃんを睨んで、こーちゃんに視線を移すと…


『…………こーちゃん、なんで笑うの』


ふふ、と口を手で押さえて笑いを堪えてるみたいなこーちゃんがいた。


「ご、ごめ…、なんかかわいいなって…」


こーちゃんはなんとかそれだけ言ってから、また笑いが込み上げてきたのか口を押さえてプルプル震えている…

だから、なんで笑うのっ!!
可愛いってなに!?
なんかものすごく恥ずかしくなってきちゃったじゃん…!

こーちゃんの指が、テーブルを挟んだ向こう側から伸びてきて、あたしの頬に落ちた涙を拭う。

その表情のなんと優しいこと…


「泣かないで。ちゃんと俺も好きだから、沙奈のこと」


こーちゃんの言葉に、思考回路が停止。固まるあたし。


『…ん?…え!?今、なんて!?』

「…何回も言わせないでよ」

『いや…聞こえなかったわけでは、ないんですが…』

「信じられない?」


ふふ、って笑うこーちゃんが眩しい。信じられない…くらくらする。


「あのねぇ、今日僕のこと呼んだのだって“沙奈とふたりなんてなにするかわかんない”っていう理由だよ?もー、いい大人が初恋かって感じだよねぇ!」

「あ、あきら!」


頬を少し赤くしたこーちゃんがあきちゃんの頭を軽く小突いた。


『えっ?…そんなこと気にしてたの?大丈夫だよ!あたしゲーム持ってきたから!』

「…………ゲーム?」

「いや、そういうことじゃなくてさ…」


こーちゃんとあきちゃんのシラーっとした視線に「?」を浮かべると、途端に笑い出すふたり。


『だから、なんで笑うの!』

「うん、ごめんね。…沙奈のそういうところが好きだよ」


こーちゃんがあたしの頭を撫でた。
その表情はうんと優しくて、柔らかく温かい。


『…あたし、こーちゃんのお嫁さんになってもいいの?』

「うん。いいよ」


くしゃくしゃっと撫でて頭から離れてく手のひら。
あの頃と変わらない返事をしてくれたこーちゃんのその手を掴んだ。


『こーちゃん、大好き!』


あたしと、こーちゃんと、お邪魔虫あきちゃん。
3人の夜はまだまだ長い。


『あーよかった!こーちゃんがロリコンで!』

「すごい今更だよね。こーちゃんはずっと前からロリコンだよっ」

「…………」←言い返せない





*My Little Girl*end

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