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□君の背中に
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「いい天気ですね」

『そうですね』


沙奈はテキトーそうに答えて、思い切り荒んだ目で太陽を睨みつけている。
…変な顔。

あーって力の抜け切った声を出して、だらりと机にうつ伏せに倒れこむ上半身。
沙奈の後ろの席。
俺はいつものようにその背中にちょっかいを出しはじめた。

ちょん、と背中をつつく。
無反応。

びよーん、と紺色のベストをつまんで引っ張る。
無反応。

…つまんない。

ゴトンと机に頭を落として、沙奈と同じようなかっこ。


『ねー。次の授業なんだっけ』


自分で見てください。
顔上げれば時間割ありますよ、目の前に。


「…英語」

『げー…』


たぶん、体育でも数学でも反応は一緒。


『祐希くん。サボろうよ』

「くん付けやめてよ。気持ち悪いから」

『きみ、いっつも雑誌読んでんだから。いてもいなくても変わんないよ成績』

「うわ…悪い人がいるよ。誰か助けてください」


変わらず前後並んで頭を落としたまま、沙奈のフッて笑い声だけが聞こえた。

顔を少しだけ上げて、沙奈の背中を指でなぞる。


「…なんて書いたかわかる?」

『なんか書いてたの?』


わからなかったのが悔しいのか、沙奈は『もういっかい!』と人差し指を後ろに突き出した。


『………』

「………」


するすると沙奈の背を行ったり来たりする俺の指に、集中する沙奈。


「…わかった?」


もそりと顔を上げて、こくりと頷くだけの沙奈の顔は見えないけど、耳まで真っ赤なのはわかった。

【スキ】って、たった2文字の簡単な言葉なのに、声に出してはとても言えない。

恥ずかしいけど嬉しい、変な気持ち。

伝わった?


「ねぇ。こっち向いて」

『む、ムリ…』

「なんで」

『変な顔してるもん、絶対っ』

「そんなの…元からじゃないですか」

『………』

「怒った?」

『…怒った』






*君の背中に*end

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