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□幼なじみ
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悠太くんや祐希くんと幼なじみなんて羨ましい!
なんて、高校生になった今も口々にそう言われるけれど、私は幼なじみという立場じゃなかったら、と考える。

元々のネガティブな性格も手伝って、幼なじみでよかったなんて素直に喜べない。


「ちょん」


悠太が唇を少し突き出して、私の眉間によったシワを人差し指で突ついた。
ハッとすると、いつも通り無表情の悠太の顔が目の前にあって、反射的に上体を仰け反らせる。
続いて春も心配そうに眉を下げて私の顔を覗き込んだ。


「どうかしましたか?」

『あ…いや、なんでも。すごいボーっとしてた』


多分、悠太や祐希に負けず劣らず感情が顔に出ない私は、こんな時どんなことを言えば春が安心してくれるかもよくわからない。

わからないから、ボーっとしてた。と、そう言えば春は少し安心したように微笑んだ。
…よかった。

悠太は「そう」と表情を柔らかいものにするとクシャと私の前髪を掴むように撫でた。
…ドキッとした。

この頃私の心臓は、こんな風に不安定に脈を刻む。
うん、わかってる。
この不整脈の原因は。

昼休憩の時間らしくて、いつもの屋上へ悠太と春と並んで行った。

先に屋上にいた祐希と千鶴が、いつもの如く、じゃれ合いながらお弁当をつついている。


「おっ!やっと来た!」


パッと笑顔で振り向いた千鶴と、少し視線を向けた祐希に混ざって私たちもお弁当を広げた。
要は生徒会の会議らしい。


「つまんないつまんないつまんなーいっ!」


お弁当を食べ終えてからそう文句を言い出すのは決まって千鶴だった。
千鶴が転校してきてから、私の周りは騒がしい。

どちらかと言うと、あんまり喋ったりするのが得意でない私だけど、最近はこんな風に騒がしいのも居心地が良く感じていた。

悠太は私の髪をいじるのが好きみたいで、よくこうして背後に回り私の髪を触る。

いい加減、うざったく感じる長さまで伸びてしまった髪をなかなか切れない。

グッと上を向くと、柔らかく目を細めた、逆さまの悠太。
また、ドキッとする。

そう、この不整脈の原因は悠太。
悠太なんだ。

視線を元に戻して、キュッとシャツの胸あたりを掴んだ。

W幼なじみWという枠の中にはめられた私たちの間に、間違って芽生えてしまった感情だ。

同じく幼なじみの祐希にも春にも要にも、こんな気持ちにはならない。もちろん千鶴にも。
悠太だけ、なんだ。

どうしよう…


「なにか考え事?」


放課後、ノロノロと帰り支度をする私を待っていた悠太が私の顔を覗き込んで、ジッと見つめる。


「不安そうな顔してる…」


ふわりと悠太の手のひらが私の頭のてっぺんに置かれた。
ドキッ…

悠太は優しい。
時々、私を子供みたいに甘やかす。
さすが祐希のお兄ちゃんと言った感じで、甘えていいよって言われてるみたいに錯覚する。


『不安、そう…?』

「うん」


私の頭に手を置いたままの悠太を見上げても、その表情は読めなかった。

悠太が何故か気まずそうに口元を隠して目をそらすと、コホン、と咳払いをした。


『なに?なんか言いたそう』

「え…」

『わかるよ。そのくらいは』


何か不自然だと感じたのは、あれだ。
帰りはいつもみんな揃ってるはずなのに、今日は悠太しかいないからだ。
同じクラスの春までいないのだから、不自然に感じるのは当たり前だ。


『…みんなは』

「先に帰ったよ」

『え、なんで?』


また悠太を見上げると、視線をそらしたままのその頬が少し赤味を帯びている。


「俺が、沙奈とふたりで帰りたかったからだよ」


小さく囁いた悠太。

幼なじみという枠を破ってくれた悠太に、きゅんっと胸が締め付けられた。




*幼なじみ*end

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