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□誰かの願いが叶う頃
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「告白、しちゃえばいーじゃん」


次の瞬間にはいつものあきちゃんの顔に戻っていた。


『そんな、軽く言わないでよ』


あきちゃんから視線をそらして、さっき零れた涙を手の甲で拭った。


「壊しちゃえばいーじゃん。泣くくらいなら」

『…え?』

「大好きなこーちゃんとお姉ちゃんの幸せの為に沙奈が身を引こうとしてるなら、それは単なるきれいごとだよ。好きなら奪っちゃえばいいじゃん」

『…あ、あきちゃん何言ってるの?おかしいよ…』

「どうして?本当に好きなら、なんで言わないの。簡単に整理できちゃう気持ちなの?」

『本当に好きだから言えないんだよ!私にとってふたりとも、本当に大事だから…言えないんだよ…っ!』


ボタボタとほっぺたの上を滑り落ちる涙が、しょっぱい。

あきちゃんは膝に顔を埋めて隠した。


「沙奈がひとりで苦しんでるのに、僕はこーちゃんの幸せを心から祝福できない」

『………』

「悔しいじゃん。ずっとずっと好きだったんだよ?少しくらい困らせたって、バチは当たらないよ。うん」


あきちゃんは自分に納得するように頷いて、二パッと笑顔で顔を上げた。

あきちゃんは、こんな子供みたいな外見だけど(失礼)ちゃんと大人で、ちゃんと私のことも考えてくれている。


「もう高校生なんだから!泣き虫は卒業だよっ!」


め!って、私の眉間を人差し指で押した。
ぷくっと頬を膨らませたあきちゃんは、いつもの子供みたいなあきちゃんだ。

ふっと知らず知らず笑みが零れて、私はケータイの画面にこーちゃんの名前を表示させた。

もしかしたら私の告白なんか本気にしてもらえないかもしれないけど、でも伝えなきゃダメだと思った。
未来の私の為に。

何回かの呼び出し音の後に、こーちゃんの声が私の名前を呼んだ。


『こーちゃん、…聞いてくれる?』


静かな空間に、こーちゃんの声が「うん」と返事した。

それを合図に、深呼吸してから話しを切り出す。
あきちゃんはいつの間にかいなくなっていた。


『私、こーちゃんが大好きです』


しばらくの間のあと、少しの戸惑いを含んだこーちゃんの声が鼓膜に響いた。


[[…本気?]]

『うん。きっとはじめて会った時からずっと…好きです』


私がそう言って、しばらくの長い沈黙の後にこーちゃんの咳払いが聞こえた。


[[ありがとう…嬉しいよ。俺も沙奈が大好きだよ。でも、ごめんね。沙奈の好きと俺の好きは違う。俺にとって沙奈は大事な妹なんだよ]]


電話の向こうの声は、優しくて、愛おしい。
…わかりきっていた返事だ。
うん、うんって何度も頷いて、漏れそうになった涙をなんとか堪えた。


『うん、ありがと…聞いてくれて。…こーちゃんの選んだ人がお姉ちゃんでよかった』


そう言うと、こーちゃんの安心したような笑い声がした。
はーっ!と大袈裟に息を吐いて、泣きそうなのをごまかす。


『これから兄妹としてよろしくお願いしますっ!』


こーちゃんが声を出して笑って、私も微笑んだ。
大好きなこーちゃんの妹…それってとってもステキじゃないか。

それから少しだけ世間話なんかして、プツンと電話を切ると、やっぱり悲しかった。

コンコン、とあきちゃんのいるであろう部屋をノックすると、すぐに開いた。
ひょっこり顔を覗かせたあきちゃんが、困ったように笑う。


「あはは、泣き虫は卒業って言ったじゃない」

『う、うるさいっ!今日で最後、
だもん…っ』


いい終わる前に涙が滲んでボタボタ零れる。
小さい頃に泣き虫だった私を、抱っこしてあやしてくれたこーちゃん。

今、あきちゃんが私のことを子供のように抱っこして、鼻歌なんか歌っている。
何の曲か全然わかんないけど、不思議と落ち着いた。

あきちゃん、ありがとう…




数年前はあんなに小さかった君は、失恋して泣くくらい大人になったんだね。

君の願いが叶う頃、僕も一緒に笑えてたらいいな。

…うん。
きっと、それがいい。




*誰かの願いが叶う頃*end
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