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□誰かの願いが叶う頃
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そんなふうに君が泣くから、僕は親友の幸せを願えない。






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私には12歳も年が離れているお姉ちゃんがいる。

私が7歳の時、お姉ちゃんが大学の先輩と言って連れて来たのが、こーちゃんとあきちゃん。
それからずっと、私はこーちゃんに恋していた。


「沙奈ちゃん、大きくなったね」


私が高校生になった今も、こーちゃんはそう言って頭を撫でる。

お姉ちゃんは綺麗で大人で、少しほんわかしすぎだけど、優しくて。
私の自慢のお姉ちゃんだ。

来月、そんなお姉ちゃんと、こーちゃんは結婚する。

幸せそうに笑ったお姉ちゃんは、なんだかものすごく遠く感じた。


「まさかふたりが結婚するなんてねっ」


あきちゃんがフォークに刺さったポテトをまぐまぐと頬張った。

お姉ちゃんとこーちゃんが付き合い出してから、こうして外食することが多くなった。
なぜかあきちゃんまで。

まぁ、あきちゃんは昔っからこーちゃんのおマメだったからしかたない。


お姉ちゃんとこーちゃんが、向かいで並んでいるこの光景には見慣れた。
時々、ふたりにしかわからない言葉を交わしているのは、見ないふり。

…お似合いすぎる。
嫌になってしまう、子供な自分が。


「沙奈ももう高校生だしさぁー、年取るはずだよねぇ。あ、彼氏とかいないの?できないの?」


あきちゃんはいつも一言余計。
うるさいなぁ…という目であきちゃんをジロリとひと睨み。

あきちゃんの背景はいつだって小花柄。
キョトンとしてから「あ、そっか」とあきちゃんが閃いたように手を打った。


「ごめんごめん。沙奈はずーっと前からこーちゃん一筋だもんね!あははっ」


あきちゃん、今なんて…?

その場がシンと静まり返った。
カクカク震えながらお姉ちゃんとこーちゃんの方へ視線をやると、え?って顔で目をパチクリさせていた。

ガタン!と席を立って、あきちゃんを引きずって一目散にお店を飛び出した。



『あきちゃんのバカーーーーー!!!』



うわーっと叫ぶ私は、あきちゃんの家にいた。
どうすんの、もう帰れない。
お姉ちゃんにどんな顔で会えばいいのかわからない。


『って、フツーにくつろぐなぁっ!』

「え、自分の家なのに」

『なんでそんなにノーテンキなの、あきちゃんはっ!』


むかつくっ!とそばにあったクッションを、フツーにソファーでテレビをつけようとしているあきちゃんに投げつける。

ボフッと見事にあきちゃんの顔面をとらえたクッションがポロリとソファーに落ちた。


「別にいいじゃない。好きなんでしょ、こーちゃんのこと」

『…っ、全然、よくない…っ』


床にへたり込んだ私を見て、あきちゃんがため息をついたのがわかった。

ポケットに入っているケータイがブブブと震える。
引っこ抜いたケータイの画面にはお姉ちゃんの名前。

…出れないよ。
なんて言えばいいの。

もしかしたら怒ってるかもしれない。
だって、お姉ちゃんの旦那さんになる人を好きだなんて。
お姉ちゃんに嫌われちゃったかもしれない。

ポロリと涙が一粒零れた。


『あ!』


震えたままのケータイの画面を見つめていると、見兼ねたあきちゃんがヒョイっと取り上げる。


「あーもしもしっ?沙奈なら僕の家にいるよ!うん。落ち着いたら帰るから、心配しないでいいよっ!」


ケータイを取り返そうとする私なんか無視で、弾む声でケータイ片手に笑顔のあきちゃん。

バイバーイ、と電話を切り、あきちゃんがしゃがんで私にケータイを渡して来た。


『おね、お姉ちゃんなんて…?』

「ん?心配してただけだよ。沙奈ってば突然いなくなっちゃうから!」

『あきちゃんのせいでしょうが…』


お姉ちゃん、私の告白(?)なんとも思ってないのかなぁ…
本気で言ってると思ってないのかも。うん。だってあきちゃん軽いノリで言ってたし、そうだ。きっとそう。

うんうん、とひとり頷いて納得する。


「ねぇー、まさか冗談でしたー!とかで済まそうと思ってるー?」


私の顔をあきちゃんが覗き込んだ。
あきらお兄ちゃん鋭いです。


『…なんで。何か問題ある?』

「…………」


急に黙って、真剣な面持ちで私を見てくるあきちゃんに、少しドキリとした。





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