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□スローステップ
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私の彼氏は、未成年同士のキスが犯罪になると本気で信じている。
いつものように可愛いほんわか笑顔で私の前にいる春。
春が私の顔を不思議そうに覗き込んだ。
「どうしました?難しい顔してますけど…」
私より少し高いくらいの春に、じめっとした視線を投げかけた。
正直言います。
欲求不満です。
春の頭の上にはハテナマークが何個も浮かんでいる。
『春』
「?はい?」
『キスしよう』
ある日突然、春に迫ってみたけれど、春は目を点にさせて「き」という形で唇を止める。
見守っていると、しばらくして顔を真っ赤にした春が「ダメですっ!!」と口を覆い隠した。
『…春は私のこと好きじゃないんだ…』
「!す、好きですよぅ!?」
『じゃあなんでキスができないんだっ』
ジロリと春を横目に見ると、眉毛が垂れ下がって情けない顔になっていた。
春がグッと両手を握りしめ、覚悟を決めたように「わ、わかりましたっ」と勢いよく頷く。
春を見ると、目ん玉がぐるぐる回っていて、かなりテンパっているのがわかる。
「め、目は閉じないんですか?」
私の肩をガッシリ掴んで、そう言う春に『あ、そうか』と目を閉じた。
「………」
『………』
「………」
『……あのー』
一向にキスする気配のない春に痺れを切らした私が声をかけると、春が「い、いきます!」と掴んでいた肩にグッと力がこもった。
そんな意気込まれても…
とか思いながら目を閉じたまま待っていた。
………………ちょん
ん?
微かに触れたような気がして、目をそっと開けて見ると…
「………」
そこにはもう身体を横に向けて、耳まで真っ赤に染まっている顔を両手で隠している春がいた。
『…それだけ?』
私が声をかけると、顔を隠したまま「………はい」と小さな声で頷いた。可愛い人。
…触れたの、鼻だったんだけど…
背中を丸めて恥ずかしがる春にクスリと笑って、まぁいいか、なんて思う。
『春』
「…はい」
小さく丸まった春の背中を抱きしめて、ありがとう、と囁いた。
*スローステップ*end