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□甘えたがりダーリン
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ゴホッゴホッと咳き込むその頬が少し赤い。
要はメガネを外し、それを机に置いてバタリとベッドへ沈み込んだ。


『大丈夫?』

「あー…」


要が熱を出しました。
日曜日のお昼、用事があるという要ママに頼まれて塚原家でお留守番をすることに。

うつ伏せになって顔だけこちらに向けている要は、目を閉じて眉を寄せている。

そういえば少し前から咳してたなぁ、なんて思いながら、ヒタ、と手のひらで要のおでこを覆う。
熱い…


『なんか食べる?お粥でもつくろうか?』

「ん…いい…」


重そうにまぶたを開く要の瞳は、熱のせいで潤んでいる。

弱ってる要…
なんかムラムラします。
あ、いやいや!不謹慎にも程があるぞあたし!

次々に浮かんでくる邪な考えを手で払って、払いきれない分はニッコリ笑顔で隠す。
まぁ、メガネなしの要には見えてないだろうけど。


『要、なんかしてほしいことある?』

「…べつに…帰ってもいいぞ…」


むくりと顔を上げ、ムーンとあたしを睨みつける要。


『帰らないよ…要ママに頼まれたし。あ、冷えピタ持ってこようか!』


あたしの言葉に、要は安心したように表情を緩めて頷いた。

かわいいな…くそぅ…
なんか素直だし。

さっそくリビングで引き出しの中身をあさるけど、目的の冷えピタがなかなか見つからない。

薬類がここに入ってるから、近くにあるはず…

次の引き出しを開けて中をあさっていると、後ろからニョキっと腕が伸びて来てビクッと震えた。


『あービックリした。要か…。って、なんで寝てないの!?』

「あ?遅ぇから来たんだよ」


要は赤い顔で引き出しを開けて、的確に冷えピタを取り上げた。

要が自分で自分のおでこに冷えピタを貼ると、気持ちいいのか目をトロンと細めて息を吐く。

力の抜け切った要の表情は、なんていうか…やっぱりムラムラします。
あ、いや違う。
違くないけど、違う!

要かわいい、要かわいい!と暴れ出す脳内沙奈を手で払う。


『ほ、ほら。ちゃんと寝てないと』


ボーっとしながらコクンと頷く要は、まるで園児のようにあたしに手を引かれて部屋まで戻り、ボフっと再びベッドに倒れこんだ。


『メガネ外しなよ』

「ん…」


短い返事のあと、動かない要の代わりにメガネをそっと外してあげる…

あー…キスしたいなー…
したら怒るかな、怒るよなぁ…

ダメだダメだと思いつつ、ソロソロと半開きにされている要の唇に近づく。


「…おい…なにやってんのお前」


むぐっと口を手で押さえられた。
いつもより熱い手のひら。


『あ、いや…あの…ダメですか、やっぱり』

「…移るだろうが…っ」

『別にいいのに、移せば』

「…ダメ」


モゾモゾと布団を被ってそっぽ向いてしまう要に、プゥっと頬を膨らます。


リビングにいようかな…
だって、ここにいてもムラムラするだけですし。

くるりと踵を返すと、ピンと引っ張られているあたしのカーディガンの裾。
要の布団から少し出た指先が、しっかりそれを握っていた。


『………』


お願いだから、そんなかわいいことをしないでほしい。

くぁーっと、顔を両手で覆う。


『か、かなめ』


ふと、そっぽ向いていた顔がゆっくりこちらを向く。


『あたしが風邪引いたら、看病してね?』


我慢できませんでした。
モフモフの布団ごと要を抱きしめて、ポカンとしている要のいつもより熱い唇にキスを落とした。


「…っ」


口を塞がれて苦しそうに眉を寄せる要。その閉じられたまぶたから揃って垂れるまつ毛が揺れ、胸が高鳴る。

唇と唇の間から漏れる吐息も、いつもより熱かった。


「おま、…っ」

『要っ!かわいい!大好き大好きっ』


ぎゅううっと要の首にしがみつくと、ふぅっとため息をつく要。
ごし…と服の袖で口を拭う。

バカじゃねーのマジで、と言い、あたしの頭を撫でながら諦めたように笑った。



次の日、あたしが熱を出したことは言うまでもない…


「バカでも風邪引くんだな」


要は心底バカにしたように鼻で笑った。

あー…あのかわいかった要はいずこへ…

ツーンと唇を尖らせてプリプリ怒ったふりをするあたしのおでこに手を当てた要の表情は、優しいものだった。


『要、ちゅーしてよ。そしたら治るからっ』

「…アホか」





*甘えたがりダーリン*end

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