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□わがまま
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甘えたがりな君が、ある日、少し不機嫌そうな顔でこう言った。


『ゆーたも、たまにはあたしに甘えてくださいっ??』


顔を傾ける君にあわせて、俺も顔を傾けた。

どうしてそんなことを突然言い出すのか、考えても答えなんて出るはずがない。

君はいつだってマイペースで、突拍子もないことを言ったりするから。…理由はあるんだろうけど。


「あまえて、と言われましても…」


俺の返事に微妙な表情をした沙奈が、両手を広げておいでおいでと動かすので、そばに寄る。


『ギューって、してあげる…』


俺の頭を胸に抱え込んで、キュッと力を込めた。


「………」


黙ったままの俺の顔を覗き込んで、どう?と尋ねてくるけど、正直微妙です。

君が、どんな返事を望んでいるのかもわかりません。

君の身体は甘ったるくていい香りがする。たぶん、柔軟剤の匂い。

その細い腰に腕を回して、折れない程度に力を入れた。


『悠太、なにしてほしい?』


優しい声。
耳元で囁く声まで甘ったるくて、全身の産毛が逆立つみたいだ。

…俺が沙奈に望むことは…


「…キスして」

『あはは、それじゃいつもと同じじゃん!』

「…じゃあ、」


無邪気に笑う君を引き寄せて、フローリングの床に組み敷いた。

突然反転した世界に目を回した君が、少し目を見開いて俺を見つめた。


「これならいい?」

『……ん、』


いつもの沙奈に合わせるキスと、俺がしたいようにするキスは全然違って。

フローリングに散らばる君の滑らかな細い髪を指に絡ませ、もっと深くまで行きたくて、細い首を持ち上げ角度を変えた。

時折、途切れ途切れに俺の名を呼ぶ沙奈が堪らなく愛しい。

沙奈に覆いかぶさり、その肩に顔を埋めた。

さわさわとおれの髪を撫でてくれる沙奈は、荒くなった息遣いを整えながら、ほんのり頬を赤く蒸気させている。


「沙奈…」

『うん?』

「そばにいて…ずっと」


目を閉じて囁く俺に、沙奈がふっと息で笑ったのがわかった。


『うん。いいよ。悠太、大好き』

「………うん」


もう一度、微笑む君にキスを落とした。

約束。

たぶん、これが俺の最初で最後のわがままだから。






*わがまま*end

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