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□未熟な僕たちは
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『ねぇ、悠太はキスしたことある?』


あれは確か中学2年生の時だった。
幼なじみの女の子にある日突然そんなことを聞かれて、内心ものすごく動揺していたのを覚えてる。
顔には出てなかっただろうけど。


「…ないよ」

『えっ?うそ!だって悠太すごいモテるじゃん!』

「ないよ…」


ふぅん、と唇を尖らせた幼なじみの女の子、沙奈の顔を首を傾げて覗き込んだ。

全く珍しいことに、今日は祐希がひとりで出かけてしまって部屋にいない。
たぶん、沙奈とふたりだけのこの空間がおかしな雰囲気をつくりだしていた。


「なんでそんなこと聞くの?」

『な、んとなく…?どんなかなって思って…』


膝を揃えて立てて、照れたように目をそらして口元を手で覆った沙奈。


「…じゃあ、してみる?」


返事も聞かぬまま、え?って顔をした沙奈の唇に、自分の唇を押し付けた。

正直、この後のことはよく覚えてなくて。
ただ、少し湿った柔らかな感触だけ、忘れられない。

俺たちが高校1年生になった頃、君は感情よりも好奇心に素直に生きていた。


『ねぇ、悠太はえっちしたことある?』

「………」


さすがに言葉を失う俺を、ジーッと見つめる沙奈。

どうして君の瞳はそんなに透明で綺麗なんだろう。


「ないよ…」

『ほ、ほんと?だって悠太すごいもてるのに…』

「ないよ」


…このやりとりは、あれだ。
デジャヴだ。

今日もたまたま祐希はひとりで出かけてしまっていない。

…たまたま、だ。


「…どうしてそんなこと聞くの?」

『…あ、ど、どんなかなって…』


2年前のあの時と同じ、じゃあしてみる?って俺が言ったらどうするの?

そんなこと言えるはずもなくて、そう、とだけ呟くと、君は何か不満気に眉を寄せた。


『悠太…』

「なに?」


思ったより冷たい響きになってしまった俺の声に、君が悲しそうに顔を歪ませた。


『…ごめん』

「………」

『ごめんなさい…』


揃えて立てた膝に、泣きそうなくらい歪んだ顔を埋める沙奈。

そんな沙奈を横目に、誰の耳にも届かないような小さなため息を吐いた。


…ほんとは知ってるんだよ。


君が俺を好きだってことも。
俺とふたりになるために、祐希を漫画2冊で部屋から出してることも。

全部、知ってるんだよ。

君も、知ってるんでしょ?

俺が君を好きなことも、ほんとは俺が全部知ってることも。


好き…って、たった2文字の言葉が聞きたいだけなのに、君はどれだけすっ飛ばしたら気がすむの…


ギュッと俺の服の裾を握り締めた沙奈に、顔を向ける。

チラリと顔を上げたその瞳は濡れている。


『す……っ、』


す、き…


その言葉は、キスに溶けて消えた。




*未熟な僕たちは*end

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