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□ふわり、ふわふわ
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ふわりふわり、と空に浮かぶ雲は風の吹くままに形を変えながら流れてゆく。


「ねこ」

『なに、いきなり』


唐突な祐希の呟きに、少しビックリして目を見開く。

祐希の指差した先に視線を送ると、確かにねこのように見えなくもない雲がポツリと浮かんでいた。


『あーあれか』


祐希は返事もせずにズコーッとパックが潰れる程にジュースを勢いよく飲み干した。

教室の窓際の一番後ろの席に祐希、その前が私の席。


祐希が「ん」と空になったパックをよこし、それを『いらん』と押し返した。

祐希が"ねこ"と称したあの雲は、すでに形を変えて、また違うものに見える。

ジトッとした目つきで私を見る祐希に、私も元々悪い目つきを更に細めた。

私と祐希は幼なじみ、というやつで。


私はずっと祐希が好き。


たぶんヤツは気付いているはず。
普段ボーッとしてる癖に、そーゆーことには鋭いのだから。

気付いていなかったら逆に変。

祐希は仕方ないなぁ、とでも言うように空になったパックをスっとゴミ箱に向かって放り投げた。
綺麗な弧を描き、ゴミ箱に吸い込まれてくパックに見惚れる。


「あ、入った」

『…すごいね』

「好きになっちゃう?」

『…えっ!?』


祐希が顔色を伺うように頬杖をついて私の顔を覗き込んだ。

もしかして、好きって言わせようとしてる…?

好きって言うチャンスなのに、私の口は言うことを聞かない。


『な、なるわけないし。バカじゃないの…』

「ふーん」


可愛くない私の返事にも、たいして興味のない様子で再び雑誌をパラリとめくった。

自分で自分を呪います…。

しかし、祐希の表情は柔らかいもので。
口元を袖で隠してはいるが、僅かに笑いを含んだ顔をしてるのがわかった。


くすぐったい…

こんな私と祐希の関係。

好きと言うにはまだ覚悟できないけれど、いつか言うから。

それまで待ってて。
ね。





*ふわり、ふわふわ*end

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