short

□きみがすき。
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すき。

そのふんわり優しい大きな手も、
私より頭ひとつ分高い背たけも、
抱きしめると感じる匂いも、
私を映すうつろな瞳も、
ふとした瞬間ゆるむ口元も、

全部、全部。
だいすきだよ。


わがままな私も、
泣き虫な私も、
強がりな私も、

とろとろになるまで甘やかしてくれる。


優しい悠太。

私にだけじゃなくて、みんなに優しい。

そういう悠太だからすきなんだけど、ちょっと不安。


私たちが付き合い始めてちょうど半年になる今日。
私の見たい映画がちょうどやっているということで、映画館に行くことになった。


「沙奈は何飲む?」

「大っきいので半分こしよー」


ビックサイズのポップコーンとメロンソーダ。

壮大な愛の物語の序章。
巨大なスクリーンに私たちはそれぞれ吸い込まれてく。

たまに、チラリと盗み見る悠太の横顔はいつ見ても端整なもので。
惚れ惚れとしてしまう。

付き合って半年。
といっても実はキス以上に進展しない私たち。

悠太なんか完全に私を妹かなんかだと勘違いしている。

キスだって…いつも子供みたいなキス…

そっと自分の唇に触れると思い出す、悠太の唇…

「!」

無意識に悠太に目を向けるとパッチリと目が合った。
フって笑われた気がして、慌ててスクリーンに視線を戻す。
そこにはグッドタイミングで濃厚なキスシーンのアップが。

どぁーわー!

心の中で叫び声を上げた。

ちょっと…
私、意識しすぎだってば…




****




「悠太!映画すっごくよかったね!」

「うん」


映画を思う存分堪能した私。

映画のここがよかった!感動した!など熱弁する私に、悠太は相変わらず優しい目で相槌をうつ。

こういう話も、悠太はちゃんと聞き流さないで聞いてくれる。

映画館から出ると外はもう夕暮れで、悠太の「帰ろっか」の言葉にあからさまにしゅんとしてしまう。

休日に一日中一緒にいたって足りないのに、学校帰りの放課後デートなら尚更、足りない。


「…帰りたくないもん…」


そんなことを呟く私を、横目で見て「…ダメです」だって。

もー。
真面目。

そんなとこも好きなんだけど。
でもやっぱりちょっと不満。

むくれる私の手をとって、ポケットに突っ込む悠太。

やっぱりすき!





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