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□キャンディ☆ガール
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それからしばし時間が経って、顔を正面に戻した。
経ったといっても10分くらいだけど。

え!?なんで!?
また見てる。

浅羽くんの痛いくらいの視線が私のほっぺにツキツキ突き刺さる。
頬杖をついて、こちらに顔を向けているのがわかった。

い、いたい…
というか、なんなんだ一体。
今、彼の中でどんな感情があるというんだ。


「………」


どうしよう。
もう話しかけてしまおうか。

そうしようにも、どうしようにも、あたしの身体はもう硬直して動きそうにないので諦める。

やっとのことで、地獄の1時間が終了し、私は解放されるはずだった。

しかし。
まだ、見てる。

休み時間だよ?
ほら、みんなそれぞれ移動開始してるよ?
貴重な10分休みだよ?
ねぇ、浅羽くん。

………っ!
もう、無理ー!!!

あたしは覚悟を決めて浅羽くんに顔を向ける。


『あ、』


あのさぁ!って言うつもりだったあたしの声は短く消えてった。

バッチリぶつかり合う視線が、あまりにも真っ直ぐで。
横顔よりも何よりも、あたしの中心をグッサリと貫いた。


「…なんですか」


浅羽くんが、唇を僅かに動かした。

全身の毛が逆立ち、冷や汗が噴き出てる感覚。


『こっちのセリフ…!』


やっとそれだけ言うと、浅羽くんは眉ひとつ動かさずに淡々と唇をほとんど動かさずに呟いた。


「真似してます」

『…?』

「大宮さんの」


ガタンっ!
音を立てて席を立ったあたしは一目散に教室の外へ駆け出した。

あたしがずっと見てたのやっぱり気づいてた!恥ずかしすぎる!死にたい今すぐ死にたい誰かあたしを殺してー!

カンカンカン…と階段を登る音が響いて、あたしはその3段目に腰を降ろした。

次の授業はサボることにする。

ポケットから缶に入ったドロップスをひねり出して、片手にポトっと一粒落とす。

赤いストロベリー味。

口に含んで舌の上で転がすと甘い香りが広がって、少し冷静になれた感じがした。

どうして。
どうして?
うん、どうしてあたしはこんなに動揺しなくちゃいけない?

真似してますって。
どういうつもりで浅羽くんはそんなことを?
いやいや、それよりなにより、あたしは…

…あたし、さっきから…ううん。
ずっと前から浅羽くんのことしか考えてない。

カァァァっと顔から火を噴き出す。

これじゃあ、まるであたし。
恋する乙女ではないですか。

はっはっはっ。
笑っちゃうね。

恋だって、あたしが恋!

女の子らしい。という言葉はあたしには似合わないよ。

スカートの下にジャージだし。
足広げて座るし。

あ…キャンディってのは女の子らしいかな?

ドロップスの缶を掲げて、しばらく見つめていた。





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