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□本屋さんで会いましょう
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その日は帰るなりベットにボフッと飛び込み、カバンを放り投げた。
神様ありがとーーーーー!
普段信じてない神様という存在もこの時ばかりは信じられた。
ベットのうえで泳ぐように手足をバタバタさせ、きゃーっと奇声を発する。
は!
枕を抱きしめた状態で、重大なことに気づいた。
私、お礼言ったっけ!?
というかむしろ、もう何を口走ったかもよく覚えていない。
次はいつ本屋さんに来るかわからない彼。
しかし私は彼の姿見たさに、毎日のように本屋に通っている。
次会った時にお礼を言って…そしたら会話をするきっかけになるではないか!
ストーカーと言われても仕方ない。実際に似たようなことをしているのだから。
しかし、次に本屋で見たとき、彼の隣に女の子がいた。
ショック…というよりも、やっぱり彼女いるんだ、という気持ちの方が大きい。
いや、やっぱりショックだ。
でも考えてみれば当たり前でしょ…
あんなにかっこいい人がいたら誰も放っておかないよ。
一緒にいた女の子は特別可愛いという訳ではないけれど、素朴な感じでとても良い子そう。
…いいな。
私がずっと夢見てたポジションにあの子はいるんだ。
逃げるように本屋を出て、息を上げて走った。
走って走って走った。
破裂してしまえ心臓…!!
しかし当然ながら心臓は破裂することなく、口から飛び出ることもなく、激しい脈を打ち私の胸に納まっている。
…もうあの本屋は二度と行かない。
…と、決めたはずなのに。
なんで私はここにいるんだ。
もう毎日の日課になっていたので、私の足は自然とこの本屋に向かってしまう。
自分でもバカだと思う。
優しそうで、見た目がかっこいい。
それだけなのに。
彼のことを考えると胸が苦しくて、痛い。辛い。
これって、もう気になるとかそういう次元を突破しているんじゃないかな。
もう相当に、私は立派な恋心を彼に抱いているのではないかな。
俯き、参考書で顔を隠した。
会ってしまったら気まずい。
あ、そういえばお礼も言えてないな。
とか思っていると、少し前から「あ」と短い声が聞こえた。
…ヤバイ。
心臓が急激に心拍を早める。
参考書で顔を隠した私を上から見下ろされ、パッチリ目が合った。
顔隠してる意味ないじゃん…!
私がチビなのか、彼の背が高いのか。私の考えの浅はかなこと。
「もしかして、毎日来てますか?」
「え!えっ!?」
まさか話しかけてくるとは思わず、嫌に声が弾んでしまって、慌てて口を押さえた。
ふっと口元を緩めたような彼が、私の目の前にいて。
「いつもいるな、と思ってて。…それだけです」
なぜか、すみませんと軽く頭を下げた彼。
いいえ!
私こそあなたの姿見たさに毎日ここに通っててすみません!
ストーカーじみててすみません!!
心の中で全力で謝った。
でも、私がいつもいるって…気づいててくれたんだ…
嬉しい。
参考書の棚に手を伸ばす彼の横顔をジッと見つめる。
いや、見惚れる。
う…どうしよう…
好きだ。好き。好き…
気づいてしまってからは気持ちは
溢れるばかりで、こんな気持ち初めて知った私は戸惑うばかり。
気づくと、彼と視線が合っていた。
バッ!と180度頭を回転させて視線を反らす。
へ…変に思われた…絶対。
ひとり密かにショックを受けていると、彼が声をかけてくる。
「それ、買うんですか?」
「え!あ、そうですねっ!買おうかなー…」
私が彼に会った時からずっと持っていた参考書が指さされた。
「それ、わかりずらいですよ。…これとか、これの方が。あ、俺のおすすめです」
彼のおすすめは両方、私が持っているものだったが、迷わずに購入した。
家に帰ったら部屋に飾っておこう…
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