*頂き物・捧げ物

□「あーあ、要に先越されちゃった」
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私の彼氏はモテる。とにかくモテる。そんな私の彼氏には瓜二つの双子の弟がいるんだけど、その弟よりモテてるんじゃないかなぁ。私が勝手にそう思ってるだけなんだけど。

悠太くんはかっこいいだけじゃなくて誰にでも優しい。いつも表情を顔には出さないけど、たまに何とも言えない優しい表情をするからたまらない。きゅんとくる。それにすごくニヤけちゃうんだよね。

そんなかっこよくて優しい悠太くんと私なんかがお付き合いできていることは奇跡に近いことで、たまに信じられなくなる。こんな完璧な人が私みたいな平凡な女と付き合っててもいいんだろうかって不安にもなる。

そんな不安が最近溢れ出しそうになりつつある。それはやっぱり、その、女の子からの黄色い声が多いからであって…。昨日の帰りに、偶然


「あっ、あそこにいるの悠太先輩だ〜!かっこい〜…」

「でも悠太先輩、彼女いるらしいよ」

「やだ、ショックー!」


と後輩の女の子達が頬を赤らめて話しているのを聞いたからだ。やっぱり悠太くんはモテる。モテるから、すごく不安になってしまう。

彼女がいれば少しは遠慮するものだと思っていたんだけど、私が付き合ってから以前に増して女の子たちからのアタックが多くなってしまった。

千鶴にそのことを相談すると、ある女の子たちはあんなぱっとしない子が付き合えたんだから私たちが無理なわけがないと言っていたらしい。あの、余計なお世話なんですけど…!

なんとなく、前の方の席に座る悠太くんを見てみる。古典の授業の板書をしっかりと書いていた。やっぱり我が彼氏ながらかっこいい…。見惚れてしまう。ニヤニヤしてしまったから教卓に立つ東先生に不思議がられてしまった。絶対変なやつだって思われた。あーあ…。

話を元に戻すけど、実は不安な要因は他にもある。それは、悠太くんにアタックしてる子はどの子も私より可愛いってことだ。みんな私なんかより絶対にお似合いで、悠太くんを取られやしないかいつも不安で仕方がない。

もう1つ不安な要因がある。ていうか1番これが問題かもしれない。私と悠太くんは付き合って1ヶ月経つのに、手すら繋いだことがないのだ。悠太くん、あんまりメールとかしない人らしいから(千鶴情報)、付き合って変わったことっていえばたまに一緒に帰るくらい…。

…あれ、これって付き合ってるって言えるの?





* * *



「と、いうわけなんですが塚原さん」

「で、俺にどうしろと」

「相談にのれ」

「偉そうにすんなアホ」

「ばーか!」

「帰るぞ」

「ごめんなさい塚原さま!」


本気で帰ろうとした要の腕を掴み、なんとかもう一度席に座らせた。じーっと要の目を見ると、要は大きなため息をついて眼鏡をぐいっとあげた。


「なんでもかんでも相手からの行動を待つんじゃなくて、自分から行動してみろよ」

「…例えば?」

「例えば……例えば、お前から手繋いでみるとか」

「うわっ、ちょ、やだ何言ってんの要!ハレンチな!」

「は!?お前が例えばっつーから言ってやったのに!」

「ちなみに恋人繋ぎですか!?」

「…なんだかんだで気になるんじゃねぇか」

「ほら、どっち!」

「そりゃ……恋人繋ぎ、なんじゃねぇの?」

「塚原さん顔が赤いですよぅ」

「うるせぇよ!!!」

「ちなみに塚原さん、恋人繋ぎってどんなのか知ってますぅ?」

「はぁ!?知ってるに決まってるだろ!つーかお前のしゃべり方うぜぇ!」

「えー、ほんとかなぁ?じゃあテストです、はい」


そう言って要に手を差し出すと、要は勢いよく恋人繋ぎをしてみせた。


「なーんだ、面白い答えを期待してたのに…つまらない男だねぇ要くん」

「っお前なぁ…!」


要がまた怒り狂おうとしたそのとき、教室のドアがガラリと開いて悠太くんが入ってきた。ただ、なぜか悠太くんの目は少し見開かれている。


「……何してるの?」

「え?」


悠太くんをまとう空気がいつもと違う気がした。


「 手」

「手?」


………要と手繋いだままだ!しかも恋人繋ぎ……!

慌てて手を離す。要は気まずそうに黙ったままだ。ちょっと、何か言いなさいよ…!


「ごめん、俺先帰るね」

「えっ」


悠太くんは私と目を合さずにそう言って、静かに教室から出て行ってしまった。


「ていうか何で黙ってたのよ要」

「悠太が珍しく本気で怒ってたから、何も言えなかった」

「え…どっ、どどどどうしよう要…!」

「とりあえず追いかけろ!まだそんなに遠くには行ってねぇはずだ」

「わ、わかった!」


要を教室に残し、無我夢中で走った。廊下を走るなと先生に注意されたけど今は聞いてられない。少しでも早く、悠太くんに追いつきたい。そんな思いでとにかく走る。

下駄箱に悠太くんの靴はなかった。もう外に出てしまったんだ…。どうしよう、追いつけるかな…!

いつもの帰り道を辿っていくと、ようやく悠太くんを見つけた。


「悠太くん…!」


息絶え絶えにそう呼びかけると、悠太くんは立ち止まってゆっくりと振り返った。


「あのっ、悠太く、ゴホゴホッ!」

「大丈夫?」


喉がカラカラだったから咳き込んでしまった私の背中を、悠太くんは優しく撫でてくれた。ほら、おちついて。と耳元で囁かれる。


「ありがとう…」

「お茶飲む?」

「平気、です」

「そう」

「えっと、悠太くん…怒って、る?」

「………」


否定しない…。要の言ったとおりだ。悠太くんは気まずそうに私から目をそらした。


「そりゃあ…自分の好きな子が男と手を繋いでたらねぇ」

「ご、ごめんなさい…」

「あーあ、要に先越されちゃった」


これってもしかして、私と手を繋いだことないとか、意識はしてくれてた…ってことなのかな。


「あ!!!」

「どうしたの?」

「鞄、教室に置いてきちゃった」

「ほんと、手ぶらだね」

「ああもう最悪…自分が悪いんだけどね。めんどくさい…」

「じゃあ戻ろう」


悠太くんは優しく私の手を引いて歩きだした。


「私一人で大丈夫だよ…?」

「俺がついていきたいの。行こう」

「うん…!」


いつも通りの悠太くんに戻ってくれたみたいで安心した。小さく息をついて胸を撫で下ろした。


「よかった」

「なにが?」

「私たち、ちゃんと付き合えてたんだね」

「何言ってるの。当たり前でしょ」

「うん!」


オレンジ色の空の下、手を繋いだ私たちの影を見ていると、自然と笑みがこぼれた。





*end*


「指先に白い花」凛花様より。
10000hit記念にリクエストして書いていただきましたー!
要くんも好きだということを覚えていてくださり、登場させてくれました…!きゅん…!でした…!

素敵な文をありがとうございましたー!

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