OTHER GENRE

□暗闇の中で子供(銀新+神)
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 昼食を終えるまで、新八は終始無言だった。無言で、午前中は日々の家事をこなしていたのである。
 端からすれば怒っているように見えただろう。現に銀時などは触らぬ神に祟りなし、とでも言うように、出来るだけ新八を刺激しないように大人しくしていた。神楽は何か思うところがあるのか、珍しく新八の手伝いをしてくれていた。
 午後になり、買い物に行ってきます、とだけ告げて一人で万事屋を出ていった新八が暗い顔で帰ってきたのは、陽も落ちかけた夕刻である。出かけてから優に三時間以上は経っていた。

「どしたネ新八、陰気なオーラが漂ってるアル」
 出迎え一発目にピンポイントで指摘してきた神楽に、新八は何でもないと力なく首を振って答える。
 両手にぶら下げたスーパーの袋を台所に運びながら、新八は気を取り直して神楽を振り返った。
「神楽ちゃん、ケーキ作るの手伝ってくれる?」
「おうヨ!」
 さすがに市販のケーキなど買う余裕はなかったので、ケーキは手作りで済ませる事にした(ほら手作りの方が気持ちこもってる感じするし、銀さんの為に糖分控えめにする事も出来るしね)。新八はレシピを見ながら材料の計量や混ぜ方の指示、オーブンの用意をしながら料理の下ごしらえもする係で、神楽の役目は材料を混ぜるいわばメインの力仕事だ。
 ガッシャガッシャとボウルと泡だて器がかち合う力強い音が鳴り響いてくると、銀時がそわそわと台所に顔を覗かせてきた。
「オメーらだけで大丈夫かー? 銀さん手伝ってやろーかー?」
「台所は私たち女の戦場アル! 邪魔すんな天パー!」
 かき混ぜる作業が悦に入ってきたのか、神楽はくわっと威嚇するように銀時に怒鳴った。
「神楽ちゃん僕は男なんだけど…まあいいや。銀さん、手出し口出しは無用ですから。居間でジャンプでも読んでて下さい」
 銀時がケーキ作りを得意としているのは知っているが、今日ばかりはご退場願う。新八は入ってくるなと手で制しながら言うが、その目は銀時の方を向いていなかった。今度は不機嫌というわけではなく、どこか申し訳なくて合わせる顔がないといった様子だ。
 銀時は胡乱げに首を傾げたが、何も言わずに居間に戻っていった。

 オーブンでケーキを焼く工程に入ると、神楽は疲れたと言って自室へ行ってしまった。神楽曰く女の戦場に一人残された新八は黙々と料理を作り始める。
 新八は下味をつけておいた鶏肉に唐揚げ粉をまぶしながら、溜め息をついた。
「はあ、困ったなぁ…」
 呟き、服の上から懐中の物に軽く触れる。大きさも厚みも重みも全くない、ちっぽけなそれ。
「…神楽ちゃんは何あげるんだろう」
 プレゼント…という最後の一言は溜め息のような唸り声のようなもので言葉にならなかった。
 新八が暗い顔をしながら遅く帰ってきたのはそのプレゼントの所為である。街中をさんざ見て回ったのに、新八が銀時の為に買った物はあまりにもお粗末であった。先日お通のライブがあったばかりで金欠だったのが響いてはいたが、理由はそれだけでない。その事で新八は自分に軽く失望していた。

 フライパンに注いだ油に熱が通った事を確認し、一つ二つと鶏肉を放り込んでいく。食欲をそそる油の音と肉の匂いが立ち上って、新八の意識はまた違うところへ向かっていった。
「銀さん…喜んでくれるかなぁ…」
 プレゼントに、ではなく、自分達が銀時を祝う事に。笑ってくれるだろうか。
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