OTHER GENRE

□君色に染まれ(千石×桜乃)
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もし俺が、俺の心が何かに、もしくは誰かに染まるとしたら。
君に染まってみたい。

そうしたら、世界が綺麗に見えると思わない?





  君色に染まれ





彼女との出会いは、ハッキリ言っていい思い出じゃない。
青学に偵察に行った時に、不運なことにボールを頭に当てられて気絶してしまったという、何とも思い出したくない過去だ。
気が付いたときに、お互い自己紹介をして――。
そんな、ささいな出会いだったのに。



「あ〜、暇だなぁ…。何か面白いことないかな…」

急に与えられた部活の休みに、特別する事もなく、オープンカフェでいつものように可愛い子ウォッチングをしていたら、何だか見覚えのある子が目に入った。
――あの子は確か、青学の…。

「そこの三つ編みの可愛い彼女。
よかったら、俺と一緒にお茶でもしない?」
「え…。あ、千石…さん?」
「こんにちは、桜乃ちゃん。こんな所で偶然だね〜。桜乃ちゃん一人?」
「あ、はい。本当は朋ちゃんと買い物行くはずだったんですけど、急に用が出来ちゃったみたいで…」

そうなんだ、と相槌を打つ。
はにかみながら小さく笑う彼女を何となく見つめた。

ほんのこの間までまだ小学生だった桜乃ちゃん。
だけど、そう小さく笑う彼女が綺麗だと思った。
外見ももちろん可愛いけど、『綺麗』っていうのはどこがっていうんじゃなくて…存在的にって感じ。
何だかずっと見ていたいような、傍にいて守ってやりたいような、そんな不思議な気持ちにさせる子だ。

――そんな風に感じた時点で、俺はもう落ちていたのだろう。


ここで会ったのも、何かの縁かもしれない。
こんな可愛い子と休日を過ごせるなら、言う事無しだ。ラッキー。

「実はさ、俺も一人なんだ。急に部活が休みになっちゃってさ。
桜乃ちゃん、これから時間ある?」
「はい、大丈夫ですけど…」
「よかった〜。じゃあさ、奢るからお昼付き合ってくれないかな」
「えぇっ!?そ、そんな悪いですっ!」

慌てて手をぶんぶん振りながら断る桜乃ちゃんに、にこっと笑いかけながら諦めずに誘う。

「そんな、悪いなんて思わないでよ。
お互い一人なんだし、ご飯だって一人で食べてもおいしくないし。ねっ?」
「…はい」

そしてまた、小さく笑う。
彼女の笑顔を見ると、こっちも自然と笑顔が零れ、何だか暖かい気持ちになる。
すごく純粋で、本当にいい子なんだろうな。

――だから俺には少し、綺麗すぎるのかもしれない。

「…千石さん?どうしたんですか?」

桜乃ちゃんの言葉でハッと我に返る。
急に無口になった俺を、心配そうに見上げる。
何でもないよ、と軽く笑ってみせて、桜乃ちゃんの頭を軽くポンポンと叩く。


それから、こじんまりとしたファミレスに入る。
このファミレスはたまに部活が終わったあとに南や皆とよく寄る店で、アットホームな雰囲気が俺はとても気に入ってる。
適当に席に着き、何気ない会話をする。

「そういえば、桜乃ちゃんって確か越前君と仲良いよね?
都大会で残念ながら俺は試合できなかったけど、やっぱ彼すごいの?」
「はい。先輩達と試合する時でも、全くプレッシャーなんて感じていないみたいで。それどころか楽しそうで」
「…へぇ、そうなんだ」

越前君の存在は他のレギュラーにとってもいい刺激になってるんだろうな。
まさか都大会で青学に負けるなんて、思ってもみなかった。
昨年大石君に勝った地味’Sだって健在だったし、亜久津だっていたし。
甘く見てたな…。

桜乃ちゃんは越前君のことをまるで自分の事のように嬉しそうに楽しそうに話した。
本当に良い笑顔で話すのに、それにちょっとしたイラ立ちを感じた。
越前君の名前を出すだけで、桜乃ちゃんの良い笑顔を引き出せ、そしてここまで桜乃ちゃんの心を占める越前君を…とても羨ましいと思った。
そういえば、よく桜乃ちゃんと一緒にいる子…『朋ちゃん』だっけ?あの子は越前君のことが好きなんだよね。見ててバレバレだけど。

――桜乃ちゃんも、そうなんだろうか…。


その笑顔を俺だけに向けてくれたら…。
俺が君の横にいることを許されたなら…。

君の傍にいれば、俺も君のように少しでも綺麗になれるだろうか…。
君の綺麗な眼に映る世界は、一体どんな風に見えているのだろう。

――知りたいと思った。
ただ、純粋に。

君の全てを――知りたいと思ったんだ。
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