OTHER GENRE

□暗闇の中で子供(銀新+神)
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「銀さん、起きて下さい。朝ですよ」
 この日も、始まりはいつもと変わらなかった。
 朝、新八が万事屋に出勤してきて二人分の朝食を作り、それが終わるとまず押入れの中の神楽を起こして洗顔を促して、次に和室を開けて銀時に声をかける。銀時は「うーん…あと五分…」とかベタな駄々をこねて、それに呆れた新八が銀時の布団を剥ぐのだ。
「神楽ちゃんはちゃんと起きて顔洗ってますよ。ほら起きて!」
 つーか毎日毎日同じ事言わせないで下さいよ!と寝起きの悪い銀時の身体を揺すっていると、銀時は瞼をきつく閉じたまま両腕をぷらんと宙に浮かせた。腕引っ張って起こしてお母さん、のポーズだ。子供のようなダメ大人の行動に新八はイラッときたが、自力で起きるのを待っていたら昼か最悪夕方になってしまうのを経験上識っているので、若干乱暴に引っ張り起こしてやる。
 銀時はまだ目をしぱしぱさせたまま、「はよー」と唸った。
「はいおはようございます。朝食出来てますからね、顔洗ってきて下さい」
 軽く手を上げて返事をする銀時を確認してから、新八は和室を出てカレンダーの前に立つ。
 こんなグータラな人間しかいないのに、なぜ破り忘れてしまいそうな日めくりなぞ使っているのだろう、破るのはいっつも僕じゃないかとつくづく不思議不満に思いながら、新八は十月九日のカレンダーを破った。

 と、そこに銀時が和室からのそりと現れて、新八の破った先の、今日を示す日付に何気なく目を遣りぽつりと呟く。
「あれ、今日って十日?」
「そうですよ。十月の十日です」
 銀時は甚平の中に手を突っ込んで腹をボリボリ掻きながら、事もなげに言った。
「おー、誕生日だわ」
「誰のですか?」
「俺の」
 瞬間、ぴしり、と空気が固まった。
 ちょうど洗顔を終えて居間にやってきた神楽も、銀時の爆弾発言に足を止め目を丸くしている。居間で丸まって寝ていた定春だけが人間達のやり取りを平然と横目で眺めていた。
「…あれ、何この空気? どしたのお前ら?」
 銀時だけが何事か理解出来ていないようで、硬直してしまった新八と神楽を交互に見遣る。

 やがて新八はふるふると震え出し、手に持ったままの九日のカレンダーをぐしゃりと握り潰して叫んだ。
「そ、そそっ、そういう事、どうしてもっと早くに言わないんですかッ!!」
「え、ふつーに忘れてたんだけど。つか何怒ってんの新八君?」
「そりゃ怒りますよ! 今日が銀さんの誕生日だなんて僕ら今知ったから、何も用意してないんです!」
「用意って何を」
「お祝いのプレゼントとか、ご馳走とかケーキとか…!」
 どこか噛み合わないというか、本気で理解しかねるというような銀時の様子に新八はイライラした。
 自分には家族がいないといつか銀時は言っていた。まさか誕生日を誰かに祝ってもらった事すらないなんて言わないだろうな!と得も言われぬ憤りやら遣る瀬無さやらで頭がガンガンする。いっそ殴ってやりたい(誰を? 何の罪で?)

「……神楽ちゃん」
 新八から思いがけず矛先を向けられた事に神楽は驚きビクッと震えた。新八の様子が尋常ではないと感じているようだ。
「な、何アルカ?」
「神楽ちゃんの誕生日っていつ?」
「私は…来月の三日アル」
「来月ゥゥッ!?」
 そういうのも早く言えよあっぶねー来月でまだ良かったよまったくもうこれから家計切り詰めないと、とか一頻りグチグチ言ってから、新八は両手を腰に当てて宣言した。
「あんまり豪華な物は出せませんけど、今日はちゃんとお祝いしますからね!」

「…まあ、堂々とケーキ食わしてもらえんなら何でもいいけど」
 一人だけきょとんとしながら天パー頭を掻いてふざけた事を言う銀時を、新八は今度こそグーでぶん殴った。
 坂田銀時の誕生日としての一日の始まりは、多分最悪であった。


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