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□それも愛 これも愛 きっと愛
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 fanculo(ファンクーロ)のより強い言葉は、vaffanculo(ヴァッファンクーロ)で、映画なんかでも言ってたりするほど割とぽろりと口から出る。とはいえ、罵声には変わりがない。アメリカーノほど口汚くないとは思うけど、ジャッポーネほど慎ましやかなはずはない。中でもギャングみたいな、裏社会に生きる人種とか、街頭に立つ女なんかの口調はヒドいものだ。
 そしてアタシなんかはそれに相当する。

 "vaffanculo=ケツにぶち込んでろ"

 これがアタシの口癖。だいたいオカシイにもほどがある。口癖の話じゃなく、アタシが現在も立っている場所が。

 シエスタのネアポリス。通りにはほとんど人影もなく、店の看板は裏返り、くたびれた排気ガスを吹かす車が湾岸通りに入っていく。サイドミラーは割れていて、半分。頭の禿げ上がった男が煙草を吹かしながら、ネアポリス特有のボロ車を走らせる。

 この街は汚くて、粗野という大らかさで溢れていて、ゴミゴミした古都の街並みと、埃も見えなくするくらいの陽気さで満ちている。そんな街をも政治的に牛耳ってしまっている巨大組織の下っ端をしていると、欠伸ばかりが出て仕方がない。

 そも、女がギャングの世界で一人生きる、なんて、映画ですらない物語だけど、その昔、南イタリアのジェラとかいう街には、ゴロツキのガキを集めてギャングを展開していた女ボスがいたって話があるけど、そんな小さな規模の話しじゃない。舞台はイタリア全土だ。

 パッショーネの名前を出すだけで、虫の死骸を見るような目をしていた警官は、笑えるくらいに素早く身を翻し、笑顔で右手を差し出してくる。

 fanculo!アタシが生きる世界はだいたいそう。
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