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□それも愛 これも愛 きっと愛
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 十分も待たされたことも、その理由も、干乾びた死体が横に転がっていることも気にならなくなっていた。ホテルのどこかの高い部屋には、もう一つ、似たようなものが転がっているのだろう。とすれば、アタシの隣の死体は何のため?暗殺チームの仕事なんて、アタシには知る由もないんだけど。

 プロシュートが口を開いた。

「ところでよォ。ナナシ。仕事が終わったばかりで悪いが、このあとちょっと、体借りるぞ」

 顔を上げると、長い睫毛に縁取られた目が、じっとアタシを見つめていた。空になったグラスの水分を求めて、ずずッ、という耳障りな音がアタシの疑問を代弁してくれた。

「何。すぐに済む。お前はクローゼットの奥で、少しばかり耳を澄ましていりゃあいい。お前ンとこのリーダーには、リゾットが話しをつけてある。気にすんな」
 それは前金みたいなモンだ、と言い添えてから、にい、と口元に笑みを刷く。

 アタシは、すっきりした胃が元に戻ってもいいから、トロピカルジュースが復元されるなら何でも良いと、神様ってやつに祈った。だけど、やっぱり神様ってやつはいない。

 アタシは本物の、余裕綽々の蛇に睨まれた頭の弱い哀れな蛙(ラーナ)だ。
 プロシュートの優しさに裏がないなどと、どこの頭の弱い馬鹿が考え付くというのか。

 ここにいたよ。

「や、やです。トロピカルジュースを買いに行ってくるので、勘弁してください。今度はちゃんと、青とかのストローにしますから」
「何言ってやがる。お前の胃に入ったソレは、もう血肉になっているんだぞ」
「じゃあ血肉でグラスを満たせばいいんですね。そうなんですね」
「早まるな。話を聞いてからでも遅くはねえだろ」
「もうすでに万事が手遅れだろがーッ!」

 叫びながら立ち上がって身を翻すアタシを、見事に暗殺チームの男は、なんと耳を引っつかんで捕まえた。

 いまだかつて、こんな止められ方をされたことがあるだろうか。いや、ない。アタシの初めてをこの男はさらっていきやがったのだ。全くどうでもいい初めてだけど。

 殺される、とばかりに暴れ狂うアタシを、耳一つで制するプロシュートは涼しい顔だ。だけど、耳をつかむ指には最初から冷静さはない。万力のようにガッチリと離してくれないあまりに、いっそピリピリと千切れていきそう。
 痛みも相まってさらに暴れる人間に対して、プロシュートは言う。
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