Extra

□それも愛 これも愛 きっと愛
2ページ/8ページ

 さっきから腰に降り注いでいる太陽光線は、じりじりという音を立てそうで気が気じゃないけど、日焼け止めを塗るためにバッグに腕を伸ばすのも日陰に移動するのも面倒くさい。

 眼下の汚い通りと、キラキラと輝く煩い海を見ているアタシの隣には、物言わぬ塊が転がっているだけ。火の点いていない煙草を口先でブラブラ揺らしながらこれからのことを考える。一時間後には、隣の塊を解体しなっくちゃあならない。それがアタシの"オシゴト"で、欠伸が出るほどの平凡な毎日を送るためには必要なコト。

 そんなのわかっている。アタシが面倒くさいと思っているのは、もちろん、このデカイ塊の解体もそうだけど、一つ、ふか〜い深呼吸をしなっくっちゃあ、のっぴきならない状況になっちまっているってことなのよ。

 組織のドラッグに手を出してオイタを致したお馬鹿ちゃんの"掃除"がアタシたちの仕事。だけど"殺し"は専門外。少し手を叩いて泣かせた後は、ボスのお望みのまま、地区管理者のお望みのままに解体作業に入る。今日は一番簡単なお医者さんごっこ(内臓切り出し)だけど、アタシはそれが不得手だから運ぶだけ運んで、後はチームメンバーに丸投げすれば万事完了。ミスはなし。

 だけど今日は予定外なことが起こった。なんで携帯電話なんてモノがこの世に誕生しちゃったワケ?それがなければアタシは今頃、太陽が嫉妬している腰に刻まれているトライバル(タトゥー)に恋人を用意してあげられたのに。

 タトゥーをいれるのはアタシの趣味の一つ。腰に太陽のトライバル。薔薇と茨のタトゥーを左腿にいれ、その茨が臍の下まで伸びてきて、青い蛇が三匹、茨に絡み合っているなんてイかした柄、アタシにしか似合わない。

 初めていれたのは十四のとき。意味なんてない。ただカッコ良かったからいれた。それだけ。なのに気付いたら、どんどん新しいのが欲しくてしょうがなくて、そのうちジャッポーネのギャングみたいに背中一面にタトゥーをいれることになるんじゃないかって思っている。

 そんなアタシの趣味の時間をぶっ潰したのは、チームリーダーからの電話。電源を切っておけば良かった。

 清掃チームっていう聞こえの良さそうな部署に配属されてから丸一年。最年少のアタシは未だにパシリに使われる。ことごとく言うとおりになんかなりゃしないけど、さすがに上司の命令を聞かないわけにはね。

 元々のオシゴトは、ただの喧嘩から刃傷沙汰に発展したアホの身内の遺体回収だったんだけど、携帯電話の無遠慮な呼び出しに応答したのがすべての始まり。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ