Extra
□それも愛 これも愛 きっと愛
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なのにプロシュートの奴。なんか口元が笑っている。こっちは気分が最悪すぎて、ここからすぐ下のプールに飛び込みたい気分なのに。
「待たせて悪かったな。ナナシ」
そう怒るんじゃあねー、とか何とか言いながら、プロシュートはアタシに向かって右手を突き出してきた。いや、リゾートホテルのラウンジとかで見る、傘の飾りの付いたトロピカルジュースをアタシに向かって突き出していた。シチリアオレンジ色のとっても綺麗な南国風ドリンク。
それと、それを突き出す男の顔を交互に見つめるアタシの目の前で、プロシュートは、ひょっと眉を潜め、ピンク色のストローを口に含んだ。
「要らないってんじゃあ仕方ねえ」
「誰が言ったー!!あまりの似合わなさに目眩しただけだっつのッ!ピンクのストローとか、この、歩く性犯罪者ッ!」
「意味がわからん。全部飲んじまうぞ」
「ダメーッ!!」
勢い良く立ち上がったら目眩と吐き気が同時にきた。
ふらつく足に逆らわず、膝を着いて世界が安定するまでひたすら耐える。降りかかってくる嘲笑も、今は甘んじて受けよう。
ギャングは笑われたらオシマイなのに!
ふか〜い深呼吸を一つ吐くアタシの目の前に、可愛いトロピカルジュースが降りてきた。救世主に助けを求めるように手を伸ばし、冷たいグラスを両手で奉げ持って目の前の男を見上げる。
金の髪が太陽の光よりも綺麗に輝いた。
アタシはへらりと笑って、お礼代わりにこう言った。
「プロシュート兄貴、カッコイイ」
目の前でしゃがみこんで、アタシにジュースを施したプロシュートは、ほんの少し笑っていて、格好良いと本気で思い直した。
差し入れのジュースは最高に美味しい。奢りなのもそうだけど、何より、二日酔いの頭と体に染み渡る100%果汁は、昨夜の酒をゆっくり分解していく。その様が見えるなら、きっと、黒いガラスが粉微塵になって太陽に触れたところから、虹色に煌めくに違いない。
一息吐いたアタシを見て、プロシュートは音もなく立ち上がる。もう少し、このまま少しだけ浮き上がったシエスタを夢見ていたかったのに。所詮、夢は覚めるものだ。