小説。

□貴方と共に、夜桜を。
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「晋助様、酒をお持ちしました」


「あァ」

私は、縁側に座っている晋助様に近づいた。

今日は会議があり、私と晋助様が出席した。
終わった後はすぐ船に戻る予定だったのだが、思いの外会議が長引いてしまったため、近くで宿を取ることにしたのだ。

晋助様の横に膝を付き、酒とお猪口が載った盆を置く。
「では、私は――」
立ち上がろうとして、あることに気付く。
晋助様が、床を指で2回程叩いた。
これは、隣で酌をしろという合図。
てっきり一人で呑むと思っていただけに、その誘いに自然と頬が緩む。
そして私は、晋助様の隣に座り直し、徳利を手に取る。
「どうぞ」
そう言って、差し出されたお猪口に酒を注ぐ。
揺れる水面に、月明かりに照らされた桜が映った。
「綺麗っスね、桜」
「……あァ」
今は桜の季節。
庭先に植わっている満開に近い薄紅色の桜は、たまに吹く風に揺れ、その美しい花弁を散らしていた。
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