Infinite Sky
□四章 気付きながらも答えられない気持ち
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〜寮への帰り道〜
『純粋な経験不足だな』
氷華との模擬戦は、清夜の勝利で幕を閉じた。
その敗因を清夜が氷華に教えているところだった。
「いけると思ったんだけどな〜」
『全然ダメだ。現に俺にダメージを与えることすら出来ていないだろ』
清夜は戦いのことになると厳しくなる。
しかし、それも氷華の才能を見込んでのことだった。
『氷華にあげたISは近距離、遠距離両方に対応したISだ。だけど、その両方ともお前には経験がない。いくら氷華の適性が高くても自分のプレイスタイル等を固めないとな』
「プレイスタイルか〜」
氷華はう〜んと唸りながら考える。
『確か近接戦闘を中心にしたいって言ってたよな?』
「うん」
『ならもう少しカスタマイズするか? 近接戦闘用に』
「?、でも私のISって清夜と一緒で拡張領域をフルに改造拡張して限界の武装じゃないの?」
ああ、そのことかと清夜が納得したように言う。
『確かに俺のリヴは拡張領域はいっぱいだけど、氷華のISは後から調整出来るように少しスロットを開けているんだ』
「そっか、でも今の武装でいいかな、私が弱いのは武装のせいじゃないし」
『わかってるな。』
清夜は微笑みながら言う。
そこへ、
「十六夜」
千冬さんに後ろから声をかけられた。
『どうしたのですか?、織斑先生。』
「ああ、ちょっとな。十六夜は私と保健室に来い。四季崎は先に部屋へ戻っていろ。」
千冬さんが少し硬い声で言った。
氷華は状況的に従った方が良いと判断した。
「わかりました。失礼します、織斑先生。清夜、また後でね。」
『ああ』
そうお互い挨拶を交わして別れる。
「来い」
千冬さんはそう告げ踵を返す。
その声は少し苛立たしげだった。
清夜は素直についていく。
千冬と共に来たのは保健室だった。
「篠ノ之がお前に...と」
『箒が?』
「いや、姉の方だ」
『!!』
千冬が差し出したのは、病院などて薬をもらった時の白い紙袋だ。
『そう...ですか』
自分でも顔が強ばっていることがわかる。
「中を見たが普通の薬に見えた。だが、お前が病気を患っているとは聞いていないぞ?」
視れば千冬の目は鋭くなっていた。
『...』
「あいつから薬を貰うということはあいつの薬でなければならない理由があるな。それも...軽いものではないだろう。」
そう、あの天才と呼ばれる篠ノ之束から薬をもらうのと病院で薬を貰うのでは訳が違う。
『...』
「答えろ...何の薬だ?」
『...』
「答えられないのか...」
清夜は顔を附せたままで、顔を上げようとしない。
千冬は息をつくとポケットから何かを取り出す。
「これも篠ノ之からだ。中は確認してないから安心しろ。」
そう言って取り出したのは一つの手紙だった。
清夜は顔をあげる。
千冬はそのまま清夜に手渡す。
「確かに渡したぞ」
千冬は用が済んだとばかりに背を翻して出ていく。
しかし、一瞬垣間見た千冬の顔はどこかもどかしそうな、それでいてどこか悲しそうな顔をしていた。
『...』
清夜はそれをただ黙って見送ることしか出来なかった。
(マスター)
リヴが労るように声をかける。
『ああ、わかってる。』
清夜は雑念を捨て去るように2、3度顔を振り、手紙の内容を確認する。
「やっほ〜!!君の天使、束ちゃんだよ!!...」
パサッ
最初の文を視ただけですぐにたたんでしまった。
(はぁ、マスター)
『...』
(マスター?)
『...』
(マースータ〜)
『...』
(マスターマスターマスターマスターマスターマスターマスター)
『嗚呼!!もうわかったよ!!読めばいいんだろ、読めば!!』
清夜は半ばヤケクソ気味で手紙を開く。
「もう、ヒドイな!!全部読まないで読むのやめようとするなんて!!いくら束ちゃんでも怒るぞ!!ぷんぷん 」
(マスター、あの人っていったい何者なんですか?)
まるで今の状態を見ながら書いたかのような手紙である。
リヴが思うこともわかる。
『(まぁ、普通の人じゃないよ)』
(そんなことわかってますよ。まさか、私たちは監視されているのでしょうか?)
『(!!、やめて、リアルに怖い...)』
そんな会話を二人だけでしながら、手紙をまた読み始める。
「別に安心していいよ、監視なんてしてないから!!」
『(ほんとかよ...)』
二人でハモったのも当然である。
「それで、本題なんだけど...今回の安定剤は少し強くしてるから。
一応2ヶ月分はあるよ!!一週間に1錠だからね!!」
(手紙だけでもテンション高いですね...)
『(文だけで伝わるのも凄いよな...)』
「あと、定期メール読んだけど君の侵食はかなり進んでるよ。忘れないで、君の束ちゃんはいつでも待ってるから。」
定期メールとは、清夜が定期的に自分の状態を束に報告しているメールである。
清夜の全てを知っているのはただ一人、篠ノ之 束だけである。
『まだ...戻れませんよ...』
清夜はポツリと呟く。
(マスター...でもあまり時間がないのでは?)
『(わかってるよ...でも...まだ無理なんだ...)』
清夜は震えていた...彼が震えている理由を知っているのは束を除けばリヴだけだった...
(マスター...)
そしてリヴは、自分の忠誠を誓った愛しい主を抱き締め、支えてあげられない自分を悔しく思った。
そこには傷を負った少年と、なにもできない無力な従者が居るだけだった...