問題児と問題児
□序章 箱庭に集いし問題児
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〜レイザースの館〜
ガチャッ
館のドアが開かれる。入ってきたのは、服の至るところに返り血が染みた、少し背の高い少年だった。
美しい腰まである銀髪の髪も、整った顔にも返り血で紅く染まり、少年の眼はも血に染めた様に紅かった。
彼が館の主、レイザース・スカーレットである。
「お帰りなさいませ。レイ様」
彼を出迎えたのが黒髪のショートで、金色の瞳を持つ、燕尾服の少年、ライアス・ナイトレイだった。
『浴室は使えるか?、ライ』
「ええ、用意できております。すぐにお入りになられますか?」
『ああ、そうしよう。グズどもの血が臭くて仕方ない。血を吸う気にもなれなかったよ。』
「そうですか、ではお食事の下準備ができておりますので、浴室からあがられるまでに用意しておきます。」
『メニューは?』
メニューを聞きながら浴室へ向かう。
「ええ、前菜として、オマール海老のフリットに野菜のスカペーチェ。
根セロリのズッパに桜海老を浮かべたスープ。
フェットチーネ味噌とバルサミコで煮込んだポークのラグーソースパスタ。
魚料理に、サーモンとズワイ蟹、長芋のガレット、シェリービネガーソース。
肉料理に、国産牛ロース肉のグリル、茸のスフォルマートバルサミコソース。
そして最後に、スイーツとして、デザート焼きたてアップルパイ、ベリーソース、バニラアイスクリーム添えになります。」
『そうか、不味い血の口直しに良いな。』
浴室の前にたどり着く。
「では、ごゆっくりとおくつろぎください。」
そう言って頭を垂れる。
「レイ様...。」
レイザースが浴室からあがり、食事をとり終えると、見計らった様にライアスが話しかける。
『俺が着いたときには酷い有り様だったよ。』
レイザースは、自虐的に笑んだ。
レイザースは、この辺り一帯を統治している貴族である。
しかし、
『到着した時に言われたよ。お前らも同じ化け物だって。だから俺ら人間を見殺しにしたんだ...と。』
そう、レイザースは人間ではなかった。
人間が住む土地を統治している吸血鬼である。
「レイ様、もうよろしいのではないですか?、所詮人間ごとき我々を理解することなど不可能です。人は...自分と違う者を嫌います。」
ライアスは暗い目で言う。
色々な種族の怪物や妖怪等が争いが絶えない中、人間たちは力有るものに守ってもらっていた。
レイザースの父親は、人間を守っている吸血鬼の一人だった。
しかし、レイザースが14歳になったときガーゴイルの群れが襲ってきて、レイザースがまだ吸血鬼の力が覚醒していなかったためレイザースを人質にとられ、何もできずに死んだ。
その時、幼かったレイザースは、目の前で父親が自分のせいで死ぬのを見た。
その時に覚醒したのだ。
真純血吸血鬼の力が。
そして、ガーゴイルの群れを皆殺しにしたのだ。
その時に父親の形見である剣、レーヴァテインが残されていて、父親が死ぬ間際に言った言葉を思い出した。
力なき者に守護と慈愛を、たとえ相手に理解されなくとも...力なき者を虐げることだけはするな。
これまでその言葉があって人間を守ってきた。
しかし、理解されないことは辛い。
『何だか馬鹿らしいな...。』
「嫌な世界ですね。」
レイザースが疲れたように呟く。
「そういえばレイ様、レイ様が留守の間にこのような手紙が...」
場の空気を変えるように話題を変える。
『手紙?』
それは黒い封筒だった。
表には、
「レイザース・スカーレット様、並びに、ライアス・ナイトレイ様」
と書かれてあった。
『差出人の名前が無いな。』
「ええ、不信に思いましたが、レイ様が帰られてからがいいと思いまして。」
『そうか。』
そういって封を切る。
そこには一枚の紙が入っていて、こう書かれていた。
「自分の世界に絶望した者に告げる。
己の望む世界が欲しいと望むのならば、己の財産を、世界の全てを捨て、我らの箱庭に来られたし。」
その文章を読み終わったあと、二人の視界は真っ白に染まった。
「うまく呼び出せた? 黒ウサギ」
「みたいですねえ、ジン坊っちゃん」
黒ウサギと呼ばれた十五、六歳に見えるウサ耳の少女は、肩をすくませておどける。
その隣でダボダボなローブを着た幼い少年がため息を吐いた。
「まぁ、後は運任せノリ任せって奴でございますね。あまり悲観的になると良くないですよ?」
少年は、それに同意するように頷く。
「何から何まで任せて悪いけど.......彼らのお迎え、お願いできる?」
「任されました。」
黒ウサギはドアに手をかけ言う。
「主催者はこれだけは保証してくれました。」
悪戯っぽく笑った黒ウサギが言う。
「彼ら三人は......あれ?」
「ん?、どうしたの、黒ウサギ。
」
「ジン坊っちゃん、呼び出すのは三人でしたよね?」
「?、そう聞いているけど?」
黒ウサギが振り返り、笑顔で言う。
「どうやら二人、多いようです!」