小説置場
□なんだかんだで、やっぱり好き。
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――これは、南沢さんが、月山に行く前のお話です。
南沢さんside
『やっぱりな』
下足箱から出て、玄関の先に広がる光景を見て、俺は思った。
確か、今日の天気予報は90%の確率で雨。
傘持って来て良かった。
最近買った結構気に入ってる、リュックから折り畳み傘を取り出す。
ポケットからチュッパチャプスを出し、口にくわえる。
そして、ふと、思った。
『アイツ、傘持ってっかな?』
思って、我にかえる。
相当、末期だなこりゃ。
ついこの間、別れを告げられた恋人のことを無意識に想うなんて。
俺は、サッカー部を辞めた。
あと数日後には、月山に行く。
別れなんて惜しむはずもないんだけど、気掛かりなことが一つ
そう、やっぱりアイツのこと。
「別れて下さい」
なんて、今にも泣きそうな顔で言われちゃぁー…
気掛かりにならない方がおかしいだろ?
付き合って1年とちょうど2週間
なんて覚えている俺は女々しいのだろう。
ふと、顔を上げると潰れた駄菓子屋の屋根で雨宿りする恋人――
もとい、元恋人の………
倉間が。
体操座りで蹲ってる。
頭にはヘッドホンが。
俺はたぶん見えてない―…。
どうする??
このまま素通りすれば、きっと俺たちはもうあの頃には戻れない。
でも―…
今、倉間の元へ行って何が出来る??
やっぱりやり直したいなんて言えるのか??
無理だな。
俺のプライドが許さないだろう。
こんな安いプライド、捨ててしまいたいが、それも出来ない。
俺はなんてちっちゃい男なんだ
だけど、
倉間のためなら、捨ててやるよ。