瓶を拾った。 一見何の変哲も無い瓶だったが、特筆すべき点が二つある。 一つは海の中で拾ったものだという事。 そしてもう一つは、中に手紙が入っていたという事だった。 私は今まで一度も、この海の向こうを見た事が無いのです。 そんな書き出しから始まった文字は、細いが柔らかな線で構成されている。 これを拾って下さったあなたは、きっと色々なものを目にした事がおありなのでしょうね。私にはそれが羨ましいです。 「グギガガガ、アホらし。そんな手紙なんか気にかけて色気づいて、どうすんだよォ」 そう言ったのは、道路標識を象っている超人である自分の同期だった。 「ていうか、顔もわかんねぇじゃん。ひょっとして不細工…だったりして……」 この後、自分が奴をぶん殴った事によりちょっとしたいざこざが始まったが――――まあその話は置いておく。 自分自身、この手紙に固執してしまう理由はわからなかった。しかし――何故だろう、どうしても放っておけなかったのだ。 女が書いた文章だから?いや、そうじゃない、きっと――水中で煌めく、あの瓶を見つけた時から―――― 青い海と白い砂のコントラストが眩いばかりに輝いている。手紙を広げ、何度も確認した住所を今一度目に留めると、ドアを叩いた。 中から出てきたのは女だった。彼女は突如現れた異形の輩に一瞬身を強張らせたものの、瓶の存在を認めた瞬間に何かを悟った顔つきになった。 「貴方が見つけて下さったのね?」 そう言って微笑んだ彼女の顔は、自分が思い描いていたどんな容貌よりも、ずっと輝いて見えた。 そう、まるで彼女の生まれ育ったこの場所のように――― 2012/08/09 |