転生後
□春の涙
1ページ/1ページ
「白鬼院さま」
また、呼ばれた。『白鬼院』と。
「何か用か?」
「まだ春先ですので外は冷えます。中へ入りましょう」
「春、か…………そうだな」
御狐神くんに『白鬼院』と呼ばれる度、なんだか胸がギュッと苦しくなるような感覚に襲われる。あと、桜を見たりしたときも同様に苦しくなる。
切なくて、哀しくて、辛い。それでも何となく懐かしい感覚。今だって、その理由を知るためにわざわざ桜の樹まで足を運んだというのに。
結局解らず終いだった。
御狐神くんが僕の方に寄ってきた。
「白鬼院さま、喉は渇いていませんか?」
「そうだな、コーヒーが飲みた…」
(僕が入れたコーヒーでお茶を…)
(凛々蝶さまを想うあまり……)
(リアルにはあはあしてたのか…)
(好きです、大好きです、)
(愛しています)
「……………?」
「白鬼院さま?」
「い、いや…何もない…」
頭に流れ込んできた映像。僕と御狐神くんの会話…?凛々蝶さま……?『白鬼院』じゃなくて?
「ど、どうかなさいましたか!?」
「え?」
視界がぼやける。御狐神くんの綺麗な顔がぐにゃりと歪む。
そっと目尻に手を当ててみた。
「…僕、泣いて、る?」
この涙の訳はもう少し後に知る事になる。
僕の頬を伝う涙は、これから始まる長い、長いお話の冒頭にすぎない。