転生後

□春の涙
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「白鬼院さま」


また、呼ばれた。『白鬼院』と。


「何か用か?」


「まだ春先ですので外は冷えます。中へ入りましょう」


「春、か…………そうだな」


御狐神くんに『白鬼院』と呼ばれる度、なんだか胸がギュッと苦しくなるような感覚に襲われる。あと、桜を見たりしたときも同様に苦しくなる。

切なくて、哀しくて、辛い。それでも何となく懐かしい感覚。今だって、その理由を知るためにわざわざ桜の樹まで足を運んだというのに。

結局解らず終いだった。




御狐神くんが僕の方に寄ってきた。


「白鬼院さま、喉は渇いていませんか?」


「そうだな、コーヒーが飲みた…」










(僕が入れたコーヒーでお茶を…)


(凛々蝶さまを想うあまり……)


(リアルにはあはあしてたのか…)


(好きです、大好きです、)




(愛しています)








「……………?」


「白鬼院さま?」


「い、いや…何もない…」


頭に流れ込んできた映像。僕と御狐神くんの会話…?凛々蝶さま……?『白鬼院』じゃなくて?


「ど、どうかなさいましたか!?」


「え?」


視界がぼやける。御狐神くんの綺麗な顔がぐにゃりと歪む。

そっと目尻に手を当ててみた。


「…僕、泣いて、る?」




この涙の訳はもう少し後に知る事になる。

僕の頬を伝う涙は、これから始まる長い、長いお話の冒頭にすぎない。


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