転生前

□どうやら風邪をひいたようで3
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自分の風邪が人に移らないように気を付けるのは、当たり前だと思う。なぜ彼には、僕のそんな心が伝わらないんだ……?そのおかげで、さっきから僕は大声を出してばかりだ。


「だ、だから別に君に気を使ったわけではなく、当たり前の事をしたまでだと言っているだろう!」


「そうだとしても、僕にとっては気を使って頂いたも同然なのです。たとえ凛々蝶さまが誰にでもこうするのが当たり前だと仰っても、たかが犬の分際でこの様な扱いをして頂けるのが嬉しくて……」


御狐神くんがホロリと涙を溢す。何でいつもこうなのか…。


「ほら、泣くな!これ…」


まだ僕の事を抱き締めている彼の腕から離れ、向かい合う体勢になる。御狐神くんは、僕が差し出したハンカチ…ではなく、ハンカチを持っている手を自らの手で包み込んだ。


「本当に、お優しいのですね……僕のような分際でも「御狐神くん」


いい加減、プツンときた。

というかそろそろ頭痛が限界にきている。大声どころかただ言葉を発するだけでも、つらい。

彼は自分の事を『こんな分際』とか言う。正直いやだ。止めてほしい。仮にも僕の………。


「仮にも僕の、彼氏だぞ?君は」


「凛々蝶さま…」


「僕はただ……」


「……………」


御狐神くんは黙って、僕の話に耳を傾けている。今なら悪態つかずに話せるかもしれない。


「ただ、自分を大切にしてほしいだけなんだ。君が自分をこんな分際とか言うのを聞いていると、悲しくなる。なんだか君が君を非難しているようで…」


「………申し訳ありません」


「君がたとえ自分を嫌いなんだとしても、僕がいる。僕は、君を………愛している」


『愛している』

こんな言葉を使うことなんか、絶対に無いと思っていた。否、愛すということ自体よく分っていなかった。けれど、今は違う。



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