転生前
□運命という
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春。満開に咲いた桜の花が、まるで雪のように舞い落ちている。
ふと思い出した、この言葉。
「来世の俺は本当に俺か?」
「母さんやおまえと出会ってない俺は俺とは呼べないのさ…」
僕は、本当にそのとおりだと思う。たとえ先祖返りが同じ運命を辿るのだとしても、同じ人生を歩むわけではない。
今だって、
「彼」が僕のことを知っていてくれて。
「彼」が僕のそばに居てくれて。
そして、
「彼」が僕をこんなにも深く愛してくれているから、僕という存在でいられる。
「彼」だけじゃない。髏々宮さんや、渡狸くん。反ノ塚や雪小路さんや夏目くんに、蜻蛉も。
皆と出会って関わって、一緒に過ごすことが出来たから。
幸せだ。ほんとうに。
これは、ずっと先の事かもしれないし、すぐの事かもしれない。次に生を受ける「白鬼院凛々蝶」のこと。
僕と同じ容姿、同じ性格の「白鬼院凛々蝶」
記憶さえも受け継ぐかもしれない。
けれど、思う。
この幸せは、僕だけのものにしたい。
「白鬼院凛々蝶」に渡したくない。
心の奥の一番深いところに鍵をかけて、永遠にしまっておきたい。
僕はこんなにわがままだったかな?
そんなことを考えていると、後ろからドアの開く音と、僕を呼ぶ声がした。声の主の足音が近づいてくる。
ああ、「彼」だ。
そういえば、「彼」に何も言わずに庭に出てしまったな。
心配をかけてしまったか。
「すぐに行くよ……御狐神くん」
この桜も散ってしまうのだろうな。
いつかは散り逝く運命。
願わくばその瞬間まで君と。