1859text-4 季節もの・お題
□Melty Kiss
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自分らしくない。
手のひらに小さな銀色のリボンを転がしながら雲雀は嘆息した。
獄寺の黒い包みに付いていたリボン、よく見るとそれはシールではなくて、結んだ後ろにセロテープを輪にして畳んだものが貼り付けてあった。
たぶん自分で結んだのだろう。
どんな顔でそれを細工していたのか、考えただけで雲雀の頬が緩む。
らしくない。
しかしどうしたらいいんだろう。
お返しと言われても、3倍返しとか10倍返しとか30倍返しも、どれも喧嘩でしか果たしたことがなかった。
ちょくちょく菓子屋にも立ち寄って物色してみたが、本当は何を返したいのかも判らない。
形式的には、バレンタインデーにはチョコレートを贈り、ホワイトデーには飴を返すものと聞く。
けれどどちらも、ただ菓子をプレゼントすれば良いという事では無いみたいだ。
少なくとも獄寺のリボンをみる限り、何か特別な思い入れがあるように思われる。
すこし考えて、雲雀はレジ前にあったバラ売りの駄菓子の、大粒の赤い飴を自分用に買って舐めてみることにした。
……飴の良さがちっともわからない。
彼はそんなものをもらって喜ぶのだろうか。
苺の香りをつけた水飴を固めた塊、口の中を転がるそれが邪魔にしか思えなかった。
応接室のソファーに座ってうたた寝に入りながら、雲雀はカレンダーを見た。もう今日が件の3月14日だ。
……獄寺隼人、彼に何を返せば良いものか。