1859text-4 季節もの・お題

□天国が落ちてくる
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「って結局お前んちかよ! なんかいかがわしい展開になるのかとか警戒したじゃねーか! 何のつもりなんだヒバリてめえ」
 和室の畳にだらしなく座り、オレは叫んだ。
 風紀財団長のヒバリは草壁に持って来させた茶を飲みながら、どこともなく遠くを見ている。口角が僅かに上がり、薄く笑ったのがわかった。
「いかがわしい展開とかって何? ねえ、明日から行き先がないなら僕が君を飼ってあげようか」
 オレの分らしい茶を手渡されたけど、オレは耳を疑って湯飲みを取り落としそうになった。
「……は?」
 ヒバリがえらく珍しく、楽しげな表情を浮かべて話し始めた。
「僕んちの猫、っていうのはどうだろうね。首輪をあげる。いつでも好きなとき、ここに来ればいい。でも首輪に鎖はつけないから、君が来たくないなら来なくていい」
 茶と一緒に草壁が置いていった、ハイブランドのロゴが刻印された貼り箱の蓋を開けると、ヒバリは中から黒革のチョーカーらしきものをを取り出した。そして淀みのない仕種でチョーカーのベルトをオレの首に巻き付ける。なんだか複雑な意匠が凝らされた留め具のバックルを固定されてしまうと、外し方がわからない上に酔っぱらったオレは、為すすべもなくヒバリの所有物にされてしまったような気持ちになった。
「僕は弱い人間の群れは嫌いだけど、小動物は嫌いじゃないよ。世話はきちんとする」
「……」
「ちゃんとごはんもあげるし、元気がなくなったらなでてあげるし、清潔な場所で、死ぬまでちゃんと面倒を見る」
 ヒバリの切れ長の瞳が、真っ直ぐにオレを射抜く。
「家出した君がダーツバーに居るの、実は知ってた。君がいつも肌身離さずつけてるボンゴレギアに、GPS発信器を仕掛けてある」
「……はあ?!」
「あと、草食動物から話も聞いてた。君が書いた置き手紙が、アジトにあったって」
 酔いが醒めそうな発言の数々に、オレはヒバリの顔を穴があきそうなくらい凝視した。な、何言ってんだこいつ。
「僕はずっと思ってた。草食動物に、君みたいな面倒なチンピラの世話は出来ないって。それからさっきダーツで勝負して、負けたらテキーラ一気するゲーム、君うっかり負けたでしょ。爆弾投げるくせに、あんな甘い狙いの付け方じゃだめだよ。また実戦でケガでもしたらどうするの? 僕は何でも、君のこと知ってる。最後の最期まで君のこと責任持って飼うから、明日から僕の猫になりなよ」
「………………」
 二の句が継げない、ってこういう時言うんだろうな、多分。ぽかんとしながら、オレはほんの少しだけ、喜んでる自分を知った。
 オレのこと、知ってる奴っていたんだ。
 誰かに探しに来て欲しい、って思っていたことも、今夜は相手なんか誰でもいいから飲み明かしたい、って思ってたことも。
 ヒバリになんか直接言えるわけねえことばっかりだけど、こいつは変態じみた反則技を駆使して、オレの心の中を知ってんのか。
 その気になればオレを力ずくで捕まえてボンゴレに突っ返すことだって出来るし、逆に放って置くことだって簡単なのに、意味不明なアクセサリーまでプレゼントしやがって、何こいつ、本当に変わり者だ。
「ねえ、答えてよ」
「どーすっかな……」
 オレは結構、本気で悩んだ。
 だってこの取れないチョーカー、何で知ってるのか判らねえけど、オレがかなり気に入ってるブランドのオーダーメイド品だ。いつの間にオレの首のサイズ計ったのか気味悪ぃけど。
「明日になったら考えるぜ。とりあえず、眠ぃからオレ、今日はもう寝る」
 そのまま畳にごろりと横になり、とりあえず瞼を閉じた。
 なんだかやっぱりテキーラは飲み過ぎたのか、こめかみがドクドク言って、何かちょっと頭痛ぇ。でも明日になったらどんな朝が来るのか、意外とつまらないものでもない気がして、ちょっとだけいい気分でオレは眠りに落ちた。


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