1859text-1 きりりく・捧げ物再録集

□PTSD of LOVE
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◆2◆


 男気を髪形で表現したような、太く逞しいリーゼント頭が、深々と挨拶する。
草壁が、ボンゴレアジトを突然訪ねてきた。
白蘭との戦い以来、久しぶりに見る草壁の登場に獄寺は驚いたが、本当に驚愕したのはその口から語られた内容だ。

「――ヒバリが意識不明?」

 5日前の晩、いつも通りに眠りについたはずの雲雀が定時になっても姿を現さず、もう4日にも渡って眠ったまま目を覚まさないのだと言う。

 飲まず食わずで眠るので、仕方なく現状は点滴で栄養を賄っているのだが、このまま延々と眠り続けるようならば、ヒトは静脈に入れられたブドウ糖を代謝しているだけでは満足な栄養を摂取することができない。

 止むを得ず鼻腔や咽頭に管を挿入して栄養を導入しなければならないのだが――一体どうしたものかと、萎れた葉を力無く咥えた草壁が文殊の知恵を仰ぐ。

「……あの、ヒバリが?」

 チューブに繋がれたまま、意識もなく病床に横たわるなど。

 獄寺には雲雀のそんな姿が今ひとつ想像出来ない。
信じる気にもなれず、冗談だろ、と笑い飛ばそうとしたが、やつれ気味に肩を落とす草壁を前にうまく出来ず、眉を寄せるだけに留めた。

「……そうだ、あのヤブ医者はどうしたんだ、奴に診てもらえばなんとかなるんじゃねーのか」

 白蘭との戦いで命を落としたり、行方が知れなくなった者も全員安否が確認され、再興されたボンゴレアジトではだいたいの居場所を把握してある。

 やれ女で無いと診ないだの、在りし日々はロクな思い出のないシャマルだったが、本当に深刻な生死の窮地に陥ったとき、見捨てられたことは無い。
シャマルの飼っている666の病原体とトライデントモスキートなら、何かちょうどいい薬にならないものか。

「いえ、実は一昨日、頼み込んでどうにか診て頂いたのですが……身体はどこも別条なく、単にストレスによる過眠ではないかと」

「なんだそりゃ……ホントに役に立たねぇヤブ医者だな」

「先の戦いによるPTSDの一種ではないかと言われておりましたが」

 恭さんに限って……と憔悴する草壁を見遣り、リボーンが腕を組みながら言う。

「困ったな。雲の守護者がファミリーと離れて別行動なのは今に始まったことじゃねーが……意識不明はねぇだろ」

 草壁をミーティングルームへ招き入れ、獄寺を呼び付けたのはリボーンだった。
いつもなんだかんだで頼りになる戦力、雲雀が雲の上の人になる一歩手前。ボンゴレファミリーとしても由々しい問題である。

 それにしてもこのミーティングの面子はどういう人選なのか、綱吉が居ないのに何故かランボが呼ばれている。

 獄寺は眉を顰めつつ、しかしリボーンの手前、話の腰を折るような質問は心に留め置いて大人しく会議机の前に座っていた。
大人になった獄寺は衝動に任せた言動を控え、分別のある行動を取ることでリボーンや綱吉から、信頼を得るに至ったのだから。

「……まぁ、前々から気になってたとこなんだが……この際仕方ねぇな。おいランボ、獄寺に10年バズーカを撃て」

「……獄寺氏に? はあ」

「獄寺、お前には特別にこの件手伝ってもらうからな。ちょっと面倒だが、ファミリーのためだ。少しの間ガマンしてやってくれ。」

 雲雀の容態について聞かされる内容は獄寺にも少なからずショックを与えている。
手伝いと聞いて嫌な気はしないが、何故自分に10年バズーカなのか。

「え……?」

「俺は読心術を心得てんだ。実はな……ヒバリのストレス源は獄寺なんだが」

 ランボが獄寺に合わせる照準、続く炸裂音。
獄寺は衝撃で遥か彼方へ身体を飛ばされるまま、リボーンの声が遠ざかって行くのを聞いた。
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