1859text-1 きりりく・捧げ物再録集

□禁弾の花園
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◆禁弾の花園◆


「おいみんな、緊急連絡事項がある。とっとと集まりやがれ。」

「……緊急ー?」

 綱吉が嫌そうな顔をしながら、集めやすい守護者をいきなり召集し始めたリボーンのことばを反芻する。

「ああ。イーピンから聞いた情報なんだが、チャイニーズマフィアの間で作られた”禁弾”が、何者かに盗まれたらしいな。」

「き……禁弾って……骸の憑依弾が盗まれたの?! 何で?!」

「ツナ、禁弾ってのはな、マフィアの間で使用が禁じられた特殊弾全てのことを言うんだ。
今回行方不明になった弾は憑依弾じゃねえ。娘々弾だ」

「に……にゃんにゃん??」

 あまりに間の抜けたネーミングに、綱吉の膝からがっくりと力が抜けていく。

「なんか……禁弾って割に、あんま強そうな名前には聞こえねーのな……」

 ぽりぽりと頬を掻きながら、山本がもっともな感想を述べた。

「娘々弾は中国青海省の拳精山で作られたとされている、門外不出の神秘の弾だ。
効果に大した速攻性や攻撃力はねぇんだが……確実に組織を駄目にする。それで分類上は禁弾と呼ばれるようになったってわけだ。」

「一体どんな作用があるのだ? 極限気になるぞ!!」

「娘々弾はな、撃たれた奴を女にしちまうんだ。それも女戦士とかじゃねえ。運動能力値平均以下の、単なるか弱い女だ」

「……?!」

「しかも撃たれた奴は性転換だけじゃ済まねえ。男女構わずトリコにしちまうようなフェロモンを振り撒きやがるのが厄介らしくてな……。
これを喰らった人間の居るファミリーは、多かれ少なかれ戦力と志気が下がって、最後は内部抗争で自滅しちまうって言い伝えだ。」

「え、ええー!!」

「いいか、だから間違ってもそんなくだらねぇ弾、喰らうんじゃねーぞ。
喰らった奴は誰であれ、ファミリーから破門すっからな。」

「えええええー!!」

 綱吉が白目を剥いて絶句した。
なんていうファンタジックな弾、そしてリボーンの話はいつもどうして横暴なんだろう。

「……あの、それって何か……解毒剤的なものって無いんスかね……」

 おそるおそる獄寺が口を挟んでくる。

「……? 獄寺くん、風邪引いた?」

「あ……い、いえ……! あっ、いやその、なんか喉が……ええちょっと、ゲホゴホ」

 獄寺の声はいつも通りの少し高く、甘いハスキーボイスではなかった。
無理に怒鳴ったような、むしろ地を這うようなデスボイス。
おそらくランボでも怒鳴りすぎたのか、喉に来る風邪の引きはじめなのかと、綱吉はあっさり納得した。

「まだ結構冷えるから、こじらせないように気をつけなきゃだめだよ?
獄寺くん……」

「じゅ、10代目……っ」

 いつも通りの優しい綱吉。
その優しさが今日は尚更獄寺の心に染みた。
うっかりすると涙まで出そうだ。

「……解毒剤は無ぇ。シャマルのトライデントモスキートと同じ原理で、男々弾って拮抗弾はあるらしいけどな。
それも実際お目にかかった事は無ぇんだ。真贋は判らねぇ」

「ともかく喰らわなきゃいーのなっ。まあ大丈夫だぜっ」

 楽天的な山本の発言を皮切りに、緊急召集は解散となった。
獄寺が一目散に駆け出していく。

「……あれ? あんな急いでどこ行くんだろうな、獄寺の奴」

「さあ……? ていうか獄寺くん、なんか痩せた気がしない?」

「どうだろな……元々あいつ美脚で美尻だったからなあ」

 よくわかんねえ。
山本のいい加減な呟きを受けて、綱吉もその件は深く気に留めないことにした。
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