1859text-2 長編パラレル

□画面の中より愛してる
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◆画面の君だけ愛してる

 
 獄寺 隼人。

 色素の薄い髪、ほっそりとした引き締まった身体、色白で女子と見紛うような小さな顔。

 女子が騒ぎ立てるような綺麗な男……ではない。
優男染みた見かけに反して、迫真の演技が話題になった俳優の名前だ。

 最近、彼は脚本を替えて何度も放映されたドラマのスペシャルで個性的な役に抜擢された。
それ以来はさっぱり名前を聞かなかったはずの彼が、最近次々とその後の出演予定を決め、大河ドラマの脇役を勤めただけでなく、気がつけばテレビのコマーシャルにまで顔を見かけるようになっている。

 ……だけど、そんなことはどうでも良いことで。

 雲雀は真っ黒な髪を鬱陶しげに掻き上げた。
少し長めのコシの強い髪が、指の間をつややかにすり抜けて再び額に落ち掛かる。

 獄寺が芸能人なら、雲雀も一応モデルとして、芸能人のはしくれを名乗ったとしても嘘にはならない。

 しかしこちらは別に引っ張りだこというわけでもなく、月刊のメンズファッション雑誌向けに月に1度、用意されたスーツと小物を身につけて、数カット分の写真を撮影するだけだった。

そして会話があまり好きでない雲雀は、興味の無い製品のプロモーション担当や雑誌の表紙なんて、自分だろうが他人だろうが、本当に誰だって良かった。

 時計を見ながらそわそわする。どうしよう。もうすぐだ。

 ブルーレイレコーダーのタイマーが作動する気配に、予約通り録画されることを確認しながら、目の前に置かれた65V型の画面の前に背筋を伸ばした。そろそろBSの放映が始まる。
 
 ……今夜。

 雲雀が世界で唯一執着する彼、大河ドラマの登場人物が、もうすぐクライマックスを迎えてしまう――。
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