1859text-1 きりりく・捧げ物再録集
□禁弾の花園
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締め切られた応接室を、淫靡な水音が支配する。
「……、……あ、……っ、ヒバリ……!」
「……っ、」
腰高にある窓の縁、そこへ半分掛けるような体勢で身体を浮かせて突き上げられ、リズミカルに揺れる銀色の髪。
「あ……、っく、もうイクっ……」
「相変わらず早いよね」
「……るせえ……っ!」
昼休みもとうに終わりのチャイムが鳴り、今は午後の授業の真っ最中だ。
そんな学校生活の時間の区切りさえ、応接室で絡まり合う二人を戒めることは出来ない。
獄寺は窓枠に腰掛けたままの姿勢、甘い余韻に浸りながら、雲雀と他愛のない会話を交わしていた。
そんな折。
ふと見上げた外の景色、小さく異質な光が乱反射したのが目に留まった。
校舎の遥か向こう、遠く見える建物の窓。
……あれは……?
「伏せろヒバリっ!!」
瞬間、獄寺は窓から飛び退いて、向かいに立つヒバリの身体を庇って床へ伏せた。
小さく爆ぜる音。
獄寺の左肋骨に激痛を通り越した灼熱感が走った。
僅かな焦げ臭さと硝煙の残滓が漂う。
死神が音もなく傍らへ躙り寄ったかと錯覚するほど、血の気が吸い込まれるように引いていく、嫌な感じ。
狙撃銃の銃弾が、あばら骨で止まっているとすればまだいい。
もし貫通していたら肺、そして雲雀すら傷を負ったかも知れない。
獄寺はおそるおそる声を出し、覆い被さった身体へと指先を伸ばした。
「ヒバ、リ……?」
「……どこ撃たれたの、見せて」
淀みのない仕草で、雲雀が獄寺を床に横たえた。
そして見事に蜘蛛の巣状のヒビをガラスへ広げた窓を警戒しながら、獄寺の背中を確認する。
ワイシャツは弾が貫通し、高速で回転がかかった銃弾の摩擦で、縁をうっすら茶色く変色させた穴が残っていた。
……しかし、血は一滴も流れ出ていない。
銃創すら存在しない。
「……」
雲雀は訝しんで立ち上がり、狙撃者の影を探した。
しかしもはや応接室から見渡す限り、痕跡ははなにも見あたらなかった。
「……?」
不意に胸騒ぎがし、雲雀は不可思議の怪我を負わされた獄寺を振り向いた。
拭えない違和感。
応接室の床、寝かせた横顔。
乱れた銀髪の毛束が青白いこめかみに散り、半ば気を失ったかのような白い首筋は頼りないほど、か細い。
先程抱いたばかりの彼の肩、それはこんなにも小さく薄いものだったか。
華奢な肩先から遊びがありすぎる制服の布地の下、ほっそりとした腕のラインが伺えた。
「……獄寺、隼人……?!」